ぱんぱんっと布を叩く音が朝の空気に響く。オニオンナイトと暗闇の雲が一緒に住む家の側で、暗闇の雲がオニオンナイトに言われた通り洗濯物を干していた。
彼女が洗濯物の皺を伸ばしてきちんと干すようになったのはこの世界に来てからだ。そもそも彼女は恐ろしいことに衣服を着けるという感覚が無かった。
けれどもオニオンナイトと共に住むにあたって(非常に不本意ながら、それが女神の頼みだったのだ)目のやり場に困るからと彼女にスエットを着用にするように求めたのだ。ちなみにスエットを配ったのはティーダやクラウドである。彼らの世界にはそういった伸縮性に富む衣服があるらしい。
スエットを着用するようになってから世界を破壊するために生まれた暗闇の雲はティナやアルティミシア達と衣服の話をするようになったらしく、服の種類は格段に増えた。

そうなると必然的に洗濯の必要性も出てくる。何度も言うようだが彼女は衣服を着用する習慣が無かった。つまり洗濯の仕方も全く知らなかったのだ。
日陰干し、手洗い、色の移りまで全てオニオンナイトが指導した。そういう意味ではオニオンナイトはスパルタだった。何もかも一緒くたにしようとする彼女を何度叱ったか数え切れない。
けれどもそれを乗り越えて彼女は随分と洗濯が上手くなった。そんな彼女の隣で自分の洗濯物を干すオニオンナイトは満足そうに笑う。

「ふむ、だいぶ上手く干せるようになったかの。」
「うん、かなり上達したよ。それにしても本当に洗濯物をしたことが無いんだね。」
「世界を滅ぼすものに洗濯は必要ないからの。」
「そっか、じゃあこういった陽が差す朝とかジャムの甘さとか、パンの焼いた匂いも知らないんだね。」
「知らぬな。」
「そんなの、辛すぎるよ。」

暗闇の雲はいつも勝気で大人の真似をして背伸びをしている少年を見た。まだ大人の骨格もしていない、小さな体。
この幼い肩に世界の命運を託されていたなんて冗談ではないのか。子供にしては博識で戦いも強くて生きるのも上手な少年は唇を噛んでいる。暗闇の雲は、それを見てとても満足した。
彼女は元の世界でたくさんの絶望を見た。誰があんな世界を作ったというのだろう。あの世界は未熟で誰かが手を指し伸ばさなければ生きていけない世界だった。彼女が破壊するか、戦士達がそれを止めるか。
自分の力で生きていけない世界をそれでも彼女は愛していた。いや世界だけでは無い。そこにいるもの全てを彼女は愛していた。
もしも彼女が誰かの目に付いたなら、彼女は母親だと言われたかもしれない。いや性別など存在しなかったから、父親に例えられてもおかしく無かった。
無償の愛と言われるものを破壊の機関が持っているなど誰が考えただろうか。

だから彼女は世界と同じ位オニオンナイトも愛している。彼女が消えた世界で彼らは生き続けるのだ。
ああなんて幸せなんだろう!彼らには暗闇の雲が持っていない、怒りや悲しみや喜びがある。それと共にたくさんの希望と絶望も。

「儂がそういったものを知らぬのは、儂を創った者達からのせめてもの慈悲だと思うがの。」
「慈悲?破壊をするために生まれたのに?」
「そうだ。儂も、お前も、あの世界にいる全員があの世界を愛しているのだ。」
「それって愛されすぎじゃない?」

必死で賢そうにする騎士が無理をして笑う。ああ、この小さなものが世界に生き残って本当によかったと暗闇の雲は目を細めた。愛も喜びも悲しみも怒りも、彼らのために廻ればいい。





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