ぎゅう、と抱き締めた体。自分より少し大きな体。見間違えるはずが無い、あれは俺の優しい仲間。

「…どうしたんだ。」

聖域に帰る途中。真っ黒な服に目掛けて俺はダイブした。
俺に倒された男は地面にうつぶしながらも、ひどく不機嫌そうな声でそれでも俺を責めたりしなかった。スコールは口に出して表現するのが苦手なだけで、仲間想いの熱い男だ。
この寡黙な男を俺はかまいたくてかまいたくて、未だにうまくかまえない。
 
今日も親父とはうまくいかなかった。それどころかレベルを上げ続けるイミテーションと必死で戦って、こうして帰る途中もぼろぼろである。
ああ、風呂に入りたいな。暖かいご飯が食べたい。横にゆっくりなって休みたい。それすら許されないのなら、せめてこの剣を置いてしまいたい。柄は更に血と汗に塗れている。

世界にもう一度召喚された俺に、再びできた仲間。
俺に希望と愛を再びくれた人達。俺がなんでこんなにぼろぼろになっても戦うかって?それは誰も弱音を吐かないからだ。
俺だってそうありたいと思う度に、傷だらけの身体に心臓がまた血を送り出す。歴戦の勇者、誰にも負けない戦士。いつだって俺はそういったものに焦がれていて、それを自覚する度に、どうしようもなく世界が愛しくなるのだ。

「ティーダ?」

戸惑うようなその声に俺はなんだか無性に泣きたくなった。
最初にこの世界に召喚された時、女神だとかカオスだとか世界だとか親父だとかありとあらゆるものを俺は恨んだ。
それから誰にも気付かれないように泣いた。なんでまた俺を呼んだんだって、そう思う反面で俺は嬉しくて仕方なかった。

俺はまた希望することができるんだって。絶望して傷だらけになったっていい。親父とまた戦うことになってもいい。死ぬほど辛いことに涙を流してもいい。
それで俺がまた生きて仲間を作って誇りを持つ事が出来るのならば、それは痛みなんかじゃない。喜びだ。

「スコールは戦っていてよかったって思うすか?」
「は…?」
「俺は思う、戦っていて良かったって。きっと俺らいつかはお別れするすよ。そう思うと今って結構幸せじゃないっすか。俺はこんな最低な毎日でも生きていてよかったすよ。」

ああ、スコール。そんな俺を可哀そうなものを見る目で見ないでくれ。
多分ここ最近秩序で一番危険な発言をしたのは間違いなく俺だが(もちろんアレな発言という意味で)、同じ17歳だろ許してくれよこのくらい。

あれだろ、俺達今からもっともっと強い敵と戦うんだろ。悲しい事もたくさんあるんだろ。でもこの世界を救ったらまた元の世界に戻るんだろ。そしたら俺は夢の海で永遠に夢を見るんだ。

平和で安穏な世界。父と母の愛、あの娘の幸せ、世界の秩序。俺が残した、たくさんのものが生き続ける。なんて贅沢でなんて不幸な平和。それなら俺は涙を流してでも生きていたかった。死にたくなるような感情と生を共にしたかった。

それでも、こうしてこの世界を必死に救おうとするのは、あの世界が本当に愛しいからだ。そのためなら俺は何度だって死ぬだろう。

「俺は戦っていてよかったと思っている。俺が戦うことで、救われる人がいるのならそれで満足だ。」

スコールの顔がひどく穏やかで俺はまた泣きたくなった。あれ、俺ってこんなに泣き虫だっただろうか。ことあるごとに泣いていた気もするけれど、こんなに頻繁に泣きたくなっただろうか。でも仕方ないんだ、嬉しいんだから。

スコールと俺の戦う理由は一緒だ。きっと他の仲間とも一緒だと思う。そういった人間達が必死になっているんだ、それだけで俺はなんだか暖かい気持ちになれる。

例えば。
俺たちみたいな人間一人の力では世界は何一つ変わりはしないだろう。そりゃあたまたまあった危機を救うことはできるかもしれないけど、それじゃ世界は救われたりしない。皆が幸せにならなくちゃ。スコールも、秩序のみんなも、親父たちも。

だから、やっぱり、俺は夢の海になんて帰らないと思う。
目をもう一度覚ましたら必ずあの娘のところへ行く。そうして涙を拭ってあげてただいまと笑うんだ。
あの娘が笑ってくれたなら、ようやく俺達の夢が始まるんだ。



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