※相変わらずのルームシェアパロ


【義士と皇帝の場合】


 朝日が昇った直後の早朝からフリオニールの一日は始まる。洗濯物から始まり、何日か分の常備菜も作っておく。最初は洗濯機も電子レンジの使い方もわからなかったフリオニールだが、ティーダとクラウドから使い方を習った後は特に抵抗も無く使うことができている。慣れるとなかなか便利で、時間も力も短縮もできることがフリオニールは密かに気にいっている。

 洗濯物を干して、おかずも2品目を作り終えた時にごとりという音がした。その鈍く重い音は皇帝の部屋の方から聞こえたので、そこでようやくフリオニールは皇帝が帰宅しているということに気付いたのだった。その位、フリオニールと皇帝の関係は薄い。確かにフリオニールは元の世界で皇帝を倒したはずだが、皇帝単体に対しての因果は薄かった気がする。皇帝が皇帝で無ければ、フリオニールが反乱軍で無ければ2人は出会わなかっただろう。まして皇帝とプライベートで会話すらしたことも無いのだ。この世界でも皇帝と個人的な話をしたことは無い。同居という形で同じ家にいるものの、家事は全て分担していたしリビングで鉢合わせることもほとんど無い。多分皇帝の方が避けているのだろうが、フリオニール自身も何を話せばいいのかわからないというのもまた事実であった。

 恐る恐る皇帝の部屋に近付く。扉に耳を近付けても、何の音も聞こえない。先程の音は何だったのだろうか。普段ならその物音も気にせずに流してしまうだろうに、その日はやけに気になった。ゆっくり扉を開ける。中は真っ暗だが、カーテン越しの朝日に照らされた部屋が綺麗に整理されているのがわかる。フリオニールの知らない家具も多く皇帝の部屋には存在したが、その部屋でも存在感が一番強い皮張りのソファの隣に皇帝は倒れていた。多分ソファで寝ていたのだと思う。それにしては、皇帝は戦闘服のままで傷も癒すことも無く横たわっている。よく見れば心無しか、息も荒い。助からないかもしれない、心の片隅でそう思った後のフリオニールの行動は素早かった。自分の部屋に戻るとストックしてあるポーションを持ってきて皇帝に浴びせる。とくとくと皇帝にかかるポーションをぼんやりと見ながらフリオニール自身、何故このような行動を取るのか戸惑っていた。2本目のポーションを使い切ると皇帝がようやく静かに眠り始めたので、その場を立ち去った。仲間に対してならソファに戻すこともしただろうが、そこまで皇帝に対して割り切る事も出来なかった。

 再び台所で3品目のおかずと朝食を作り始める。ライトからおすそ分けをしてもらったガーランド特性の金平ごぼうがフリオニールには地味に嬉しい。あの人、意外と器用だなぁと思いながらもフリオニールは朝食も作っていく。ちなみに朝食はご飯であることがフリオニールのささやかなこだわりである。ご飯と味噌汁と魚。フリオニールの世界にはご飯は無かったのでこの世界に来てからの習慣である。本当にこの世界は便利なもので溢れている。米を炊く余裕なんてフリオニールの世界には無かった。確かにこの世界は戦いの連続である。辛いことも多いし、余裕も無いがこうして穏やかな時間を過ごせているのも事実だった。いい世界だよなぁ、フリオニールは呟く。

「どういうつもりだ。」

 風呂から上がって着替えた皇帝は、ほかほかしながらリビングキッチンに仁王立ちしている。正直、威厳は無いと言ってもいい。明らかに腹を立てている皇帝を背中で感じながら味噌汁をよそう。我ながら立派な朝食である。朝から完璧に一汁三菜を作り上げた自分を褒めてあげたい。

「とりあえず座れよ。朝食を食べてから話しても遅くないだろ。」

 皇帝は何か言いたそうだったが、暖かいご飯を目の前にして無言で席に着く。そんな皇帝を横目で見ながら、フリオニールも朝食を食べ始める。本当にいい世界だよなぁ、心の中で呟いた声は、当分皇帝に発せられる予定はなさそうである。




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