初めて会った時、子供扱いされて腹が立った。次に会った時、剣の腕を褒められて拗ねたふりをしたけれど、本当はすごく嬉しかった。その次に会った時、俺が知ってるすごいいやつに似ていると言われて、少しだけ得意になったがその後そいつ子供なんだけど、と言われて脛を蹴り飛ばした。

最後に会った時、彼は僕に対する記憶は無かった。僕は何となくそれをわかっていたのでベッドに横たわる彼にはじめましてと言った。
そこがあの世界では無いとも知っていた。もちろん僕の世界でも無いことも。そこは酷く不安定な世界で僕に初めて会った彼は(厳密にはそうではないのだが)、はじめましてと言って微笑んだ。彼が近くの椅子を手で示したので、僕はそこへ座った。

彼は僕が座るのを見ると、 心配な人がいるんだと優しく言った。僕はそれが誰だかわかっていたので、それはティナのことでしょう?と言った。彼は頷いて、よく知ってるなと笑った。

僕はその時既にティナに対して守ってあげたいだとか笑っていて欲しいと考えていたので僕が守るよと言った。彼は驚いていた。ティナのことを知っているのかとか彼女を救うのはとても大変だぞと言った。僕はそうだねと言って床に届かない足をぶらつかせた。
彼は酷く心配していた。きっと彼女を残してこの世界を去るのが辛いのだ。前後関係も理由も全くわからないが僕は彼がここで終わりだということを知っていた。

「ティナはきっと僕が守るよ。哀しみも憎しみも僕が減らしてみせる。だから貴方は心配しないで休んでください。」

それを 聞くと彼は難しい顔を壊して笑った。僕はその反応が意外で、僕の頭を押さえる暖かいものへの反応が少しだけ遅れた。そしてすぐに彼が僕の頭を押さえて撫でているのだとわかった。なんだか恥ずかしいやら嬉しいやらで僕の顔は赤かったと思う。

「お前は優しいなぁ。確かに俺は彼女に幸せになって欲しいけど、お前にも幸せになって欲しいんだよ。俺は確かにここで終わりだ。この世界への後悔もある。お前に代わって俺が彼女を守りたいという想いも無いわけじゃない。でも、そんなことはどうだっていいんだ。俺はこれからを生きる人に幸せになって欲しいんだ。」

僕は目を見開いた。いつもの彼らしくなくて、でもその眼差しはいつか見た大きな背中に似ていて眩しかった。
彼が元の世界では空 賊だということを僕は思い出していた。彼はその腕で空を飛ぶ飛空艇を操っていたのだろうか。あの少女のような人を、元の世界でも救っていたのだろうかとベッドの向こうの空を見た。

「ありがとう、オニオンナイト。俺の代りに彼女を頼むよ。」

僕は彼に認めて欲しかったのかもしれない。同じ異世界で戦う仲間として僕を対等に見て欲しかった。その自由な生き方が羨ましかった。先にこの世界から消えてしまうことが悔しかった。僕は彼に助けてもらってばかりで彼に何も恩返しができていない。
泣きそうな顔をした僕を彼はやはり微笑んでお前なら大丈夫だよと言った。


祝われた幸福


やはり彼には叶わないと僕は下を向いて少しだけ笑った。



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