一度沈んだ眠りの海から目覚めの闇へ。


真夜中に目が覚めるのはしんどいとバッツは常々思っている。戦闘で疲れた体が高揚して一度深い眠りに誘われるもこうして中途半端な時間に起きる。今が何時だか知らないが夜明けまではきっと長い。

ふと周りを見渡せば近くにいるジタンとスコールへ目は止まる。ジタンは掛け布団をゆっくり上下させ、スコールは逆にぴくりとも動かない。二人が深い眠りについていることに安心を覚え大きく深呼吸をする。

手を、指を軽く開閉させる。眠れない。どうしたものかと考えていたらスコールやジタン達から少し離れた場所にいるティーダが寝返りを打った。ティーダの足がフリオニールの腹にのし掛かり、ぐっとくぐもった声がした。眉間にシワを寄せたフリオニールの隣には少し丸まったクラウドとピンと礼儀正しく寝ているセシルを見た。寝る時まで正しいその姿勢に感心しつつ、そのまま更に離れた場所にいるオニオンとティナに目をやる。ティナを匿うようにこちらに背を向けるオニオンとその小さな体から少しだけ見えるティナ。赤い服はマントに包まれて見えなかったが二人とも動くことなくすぅすぅと静かに寝ているようだ。

そのずっと先には、ライトがいる。こちらに背を向け甲冑を纏ったまま、焚き火にあたっている。今晩の寝ずの当番はライトだ。ちなみにバッツの当番は明明後日だ。

ライトの長いマントに夜の闇が纏う。彼はあの険しい瞳で夜の闇と赤い火を見ているのだろうか。もしかしたらバッツが起きていることもわかっているのかもしれないと考えると少しだけ愉快だった。それは不謹慎だと怒られるかもしれないが。

焚き火の明かりはこちらにはほとんど届いていない。やはり、夜は深い。どうしてこんなにも眠れないのだろう、もどかしい。

寝返りを打てば、丁度仰向けのスコールとクラウドの背中が見える。その小柄な背中を辿り目線をあげれば、夜の闇に白銀の髪が靡いている。

セシルだ、と思うと同時にセシルの開いた目と、完全に目線が交わった。目が見開いた状態のセシルと見つめ合うこと数秒。やばい、割りと怖いかもしれないと恐怖を感じ始めた頃セシルが口元だけで笑うので釣られて、目元だけで笑う。ああ、よかった、いつものセシルである。

セシルが軽く顎で前を指した。その意図を理解したバッツはうつ伏せになりそのまま歩伏前進で少し皆から離れた場所へ移動する。セシルもバッツに続いてすぐに隣まで音を立てずに来た。

二人が寝そべって隣り合わせになると、セシルが地面に指で眠れないの?と書いた。

バッツは頷いた。セシルは指についた土を払い落としている。ふとバッツの肩に暖かいものが触れる。一瞬何が起きたかわからなかったバッツがゆっくりと自分の肩を見れば、セシルの手が肩に乗っていた。

ああ。
バッツは声には出さずにしかし確かにそう言った。セシルは目を細めて微笑んでいる。
ああ、暖かい。ここにいるのは、人間で、仲間であるセシルである。昼の戦闘は終わった。程好い温もりと重さが心地がよい。

セシル。
バッツはやはり音には出さずにそう呟いた。セシルは何も言わなかったが、隣から感じる空気はいつもに増して優しい。

バッツは目を閉じる。
そのままゆっくりと頭を地面に置けば、隣のセシルも地面に伏したようだった。

「おやすみ。」

セシルから今夜初めて声が発せられた。しかし今夜はこれ以上声は発せられないはずだ。バッツは微笑む。

「おやすみ。」

バッツの心は酷く温かくなり、そのまま急速に眠りの海へ沈んでいった。


柔らかな愛


次の朝仲良くならんで寝ていた事が冷やかされるのはまた別の話。



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