スコールは眉間に皺を寄せて考える。

2日ぶりに聖域に戻ってみると知らない女性がティーダと話している。
金髪のおさげに紫のドレス。顔は後ろを向いているため見えないが、ティーダよりは背が低いらしい。耳をすませても声を発していないらしく、何も聞こえなかった。
そもそもあのロングドレスでどう戦うのだろうか。それとも魔法が主体の戦い方をするのだろうか。

現実逃避はそこそこに。
脳は最初から結論を出している。
あれはクラウドではないか。
スコールの嫌な予感は続く。
もしクラウドなら何故あんな格好をしているのか。
こんなことを言えば怒られるかもしれないが、バッツとかジタンならわかる。彼らなら遊びでやっているのかもしれないと放っておくが今の場合はクラウドだ。なんというか、冗談が過ぎる。

よし、ティーダをまず落とそう。
近付いて声を掛ければ同い年の青年は快活そのものに、おかえり!と声を掛けてくる。
その太陽ばりの笑顔の隣、振り向いた女性が微笑む。

うん、クラウドだ。
十中八九、クラウドである。
問題は解決したようで更なる深みにはまる。何故クラウドは女装をしているのか。なにか目的があるならいいが、もし趣味ですなんて言われたらクラウドとこれからどう関わっていけばいいのか。そういったものに偏見は無いつもりだが知人がある日そうだとわかれば流石に驚くし戸惑いもする。ましてやあのクラウドだ。確かに少し変わってはいるが、彼は分別のある大人ではある。夢なら覚めてほしい。

「あ、スコール。紹介するな、クララさんっす。」

どこからつっこめばいいんだ!

え、ティーダにとって目の前にいるがっしりとした筋肉質の女性=クラウドでは無いのか?天然、純粋。大いに結構、ティーダの良い所だ。しかしこれではあんまりではないか?それともクラウドと認識しつつのボケだろうか?そうならそうでそう言って欲しい。言わなくていいから合図が欲しい。以前17才同士だから何かあったら俺が1!って言ったら7っていうんすよ!そうしたら俺達は仲間っすから、どんな時も。裏切りは無しな。って言ってたじゃないか、今言わずしていつ言うんだ、あの役に立たない合言葉を。まぁ、もし今1と言われたとしても俺は7と言うつもりは一切無いが。

大体何故クラウドを疑いながらティーダまで疑わなきゃいけないんだ。スコールは段々と腹が立ってきた。しかし、2人とも人として根が深い所を疑われているなんて俺なら相当ショックだが本人達は気づいてないようだからそれはそれでいい。

「ああ…。」

我ながら情けない声だ。クララ(これですら本来の名前かどうかは疑わしい)は微笑みながら手を伸ばしてきたので反射的に後ろに逃げる。

「あら、酷い。」

完璧にクラウドじゃないか、これは。声が低いです。

「クラウ…。」
「クララさんっすよ、スコール。」
あれ…?ティーダはクラウドとクララは同一人物だと思ってるのか?思っていてわざと騙されているふりをしているのか?どうなんだ、ティーダ。返答によってはこれからの付き合い方まで考えなければいけなくなる。

「クラウドとクララさんは別人っすよね。」
「ええ。」

駄目だ、遂にティーダがバグった。これはいよいよセシルを呼ぶべきか悩んでいたらクララ(クラウド)が話始めた。

「クラウドは男でしょう?私はその、男性に誘われたこともあるし…。」
「クララさん、モテるんすね〜。」
「そんなこと無いわ、あの時もドレスなんて初めて着たし…。」
「え、すごく似合ってるけど?」
「あら、お上手ね。でも本当に友達の後押しがないとこんな格好できなかったわ…。」

ドレスを手で持って靡かせるクラウド(あくまでもこれはクラウドであるとスコールは思う)を見ながら心底複雑な気分から、一種の哀惜まで俺は感じ始めた。

「クララさんはもっと自信を持っていいって!可愛いし!」
「ふふ、ありがとう。ティーダは優しいのね。それじゃあ、スコールも帰ってきたことだし、私はコロシアムに行ってくるわね。」
「おう、気を付けて行ってくるっす。あと、ミスリルお願いします!」

ドレスのまま、笑顔で手を振りながら片手でバスターソードを持ち直し、コロシアムに向かうクラウド(自他共に認めるクララだが)の背中がやけに男らしい。肩に担がれたバスターソードの凛々しさに眉間の皺をよせていると隣でティーダが呟いた。

「あれでストレスが解消できればいいんすけど。」


ミュラーリエルの環


俺は一連の流れを漸く理解したのだった。



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