唐突だが俺から見たセシルの兄ちゃん、ゴルベーザは鎧、の一言に尽きる。
というより友達の年の離れた兄ちゃんレベルだ。まず会話は無いと言っていい。

そもそも敵であるカオス勢と話すことなんてあるんすか?なんてわざとらしい。
自分の宿敵とはべらべら話すのに。要はゴルベーザは俺にとってあくまでも他人で、ひたすら知人に近いカテゴリの人間だったのだ。

セシルのことは好きだ。兄ちゃんがいたらこんな感じだろう。優しいセシルはいつも自分のこと以外で悩んでいる。それは大方ゴルベーザとどうすれば共に生きていけるかというものだろうけれど。

身内とどう生きるかは俺にも当てはまるテーマだが、俺なら間違いなく親父に今更遅いんだよ!って言う。言うだけじゃなくて、ブリッツボールを顔面に叩きつける自信まである。
そう堂々と言うとセシルは少しだけ困った顔をして笑いながら、そんな思い出すら無いんだよ、と言った。
セシルはいつだって優しくて暖かかったから、その時俺は初めてセシルの心の中の暗い穴ぼこに手を置いた。

兄ちゃんはどんな人なんだ?と尋ねたらセシルは優しい人なんだと微笑みながら答えてくれた。

優しいセシルの優しい兄ちゃん。

俺の記憶が急速に蘇る。
夢の終わりに立つ俺と、俺の傍にいる人。

憎んでも憎み切れぬのに何故憎む。

理性的な声が心を揺らす。そんなに簡単にはいかねぇんだよ、優しい声に俺はいつだって反発した。
あの声は誰なのだろうか。

ティーダ。
セシルの声ではっとする。お父さんはどんな人なんだい?セシルの唇が父さんと紡いだことが少しだけ不思議な気分だった。

ろくでもない親父っすよ。

吐き捨てたその言葉とは裏腹に俺はそれでは駄目だと思った。
それではあの人は満足してくれないだろう。きっと今のセシルのように困った顔をする。

あの優しい魔人にまた会って、お礼を言わなければ。しかし、そもそも会ったことすらないというのに俺は何から感謝すればいいというのだろう。


母の檻


繰り返す疑問は浄化の時に


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