「ああ、殿。泣かないでくださいよ。これからは俺は貴方の涙を拭えないんですよ。」
「誰が泣くか。これは目に埃が入っただけだ。そもそもお前に涙を拭ってもらった経験など無い。」
「相変わらず、気の強い方だ。でも、貴方が賢い方でよかったですよ。ここで説明しなきゃいけないのは、流石にしんどいですからね。」
「俺が気の強いのも、賢いのも、お前は今頃気付いたというのか。だからお前は左近なのだよ。」
「意味がわかりませんよ。あ、ご飯はきちんと食べて、体調を崩さないようにしてくださいね。笑ったら殿は素敵なんですから、人の言うことも素直に聞いてください。」
「お前に言われなくても、規則正しく飯を食べ、寝て、体調管理位はちゃんとする。それ位、大人なのだから俺だってできるのだよ。」
「それにしては、よく無理をなさるじゃないですか。それから、あんまり綺麗な言葉はその姿で使うとまずいんで、少しだけ控えてくださいね。」
「お前は、俺の母親か。この格好でそういう言葉遣いはしない。逃げるのだから言葉遣いは勿論、やれることはやれるだけやる。」
「そんな、おねね様と肩を並べようなんておこがましい。俺はこれ以上、共にいけないですからね。せめてもの餞です。」
「そんな、死ぬようなことを言うな。左近らしくもない。俺達の理想はまだこれからだろう。」
「ああ、俺は殿のそういうひねくれた所も、義に生きた所も、嫌いにはなれなかったですなぁ。絶対に真似したくない生き方だと思いながら、最後まで真似できなかった。」
「誉めているのか、貶しているのか、どちらなんだ。というよりほとんど、馬鹿にしてるだろう。」
「いえいえ、俺は結局、利に生きた人間だったと殿を見る度に思っていたんですよ。まぁ、馬鹿な人だとは思っていましたけど。」
「思うというか、俺に向かって大馬鹿だと言ったことを俺が生涯忘れると思うなよ。」
「殿は案外ねちっこいですなぁ。陰湿な男はもてませんよ、殿。」
「左近よりもてていると自負しているから大丈夫だ。大体こんなむさ苦しいおっさんと爽やか男前な俺が同じ土俵で戦っていると思うな。」
「殿は相変わらず手厳しいですなぁ…。ああ、殿、もう行くのでしょう。」
「左近。」
「はい。」
「それでは、またな。」
「はい、それでは、また。」







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