「それでのこのこと帰って来たのか、情けない。」

一方的に相席をして来た挙句、ため息まで付いてきた男を左近は呆気に取られながら見ていた。顔に大きな刺青を入れ、長い髪をなびかせた男も印象的だったが、その隣にいるゴスロリの恰好をした少女も印象的である。
しがない喫茶店にはあまりにこの2人は目立ち過ぎて左近は頭が痛くなった。早くどこかに行ってくれないかなと考えていた矢先のあの発言である。一体左近が何をしたというのだ。

「元親さん、とガラシャさんでしたっけ。」

恐る恐る放たれた左近の言葉に元親とガラシャは満足そうに頷いた。その傲慢ともとれる態度に左近は何とも言えない気持ちになる。

「三成と会うのが今更怖くなったのか。」

オレンジジュースを飲みながらガラシャはサクッと左近の深層心理を読み取る。この娘はいつだって人の気持ちや正しい事を読み取ることが病的な程に上手かった。今も昔も彼女の不思議さは変わっていないのが、妙に左近は懐かしく感じた。

「そりゃあ、三成さんに何から話せばいいか迷ってますからね。」

正直な気持ちを言ってしまったのは左近が心底この問題を悩んでいるからであって、この二人を信頼したわけでは無い。
それなのにやはり元親は満足そうだし、ガラシャはほむ!と嬉しそうに声を挙げる。なんだこの2人。

「では真実を教えよう。三成に記憶は無い。お前が思うような約束も今の奴は覚えていない。」

息が止まるかと思うような衝撃と小さな安堵が左近を襲った。
いやあんたらどんだけ人のプライバシーを侵害しているんですかということよりも、三成が関ヶ原の事を忘れ左近が破った約束を覚えていないことに少しでも安心した自分がどうしようもなく憎らしかった。

「これで三成に会う理由は無くなったの、左近。」

少女の淡々とした声が左近を乱す。確かに彼女の言う通り三成に記憶が無いのならば会う必要も無いし、会うことすら困難になるだろう。
少しでも三成が記憶を持っているのでは無いかと思った軽率な自分がたまらなく嫌だった。そうだ、今までも記憶を持っていない人間の方が圧倒的に多かったではないか。
このままでは最悪不審者で捕まるかもしれない。貴方の前世を知っているんです、なんてどんなホモセクシャルのストーカーだよ。

「でも俺は今の三成さんが幸せかどうかこの眼で見てみたいんですよ。」

それもどうかと自分で思う。けれども左近は関ヶ原から立ち去る三成の険しい顔つきが未だに忘れることができない。殿、綺麗な顔にまた皺が寄ってますよ。そう茶化したかったがそんな余裕も左近には無かったので、結局三成とは再び笑う合うこと無く死に分かれてしまったのだ。
今でも思い出すだけで胸を掻き毟りたくなる衝動に駆られる。無力とはどうしようもなく辛いものだ。
そんな左近を見て2人は再び満足そうに微笑み合う。本当になんなんだお前達。
元親とは前世で関わりもないし、ガラシャに至っては左近や三成が殺したようなものだ。それなのにどうしてこのように左近を応援するような素振りを見せるのだろうか。

それを問えばガラシャは満足そうに笑ってうむ!教えてやるぞと朗らかに言う。こんなんだっけか、ガラシャ。もっと陰鬱な表情をしてこの世に絶望していたはずなのに、彼女は左近の前でもひどく優しく笑う。

「全ての人は祝福されるべきだと思わぬか。」

ああ、どうしてこの子はこんなにも明るいのだろう。俺はこのまま殿に考え無しに会ったら不審者になるのにこの子と来たらもう!
この世ではあまり関わりが無いというのに彼女の事が柄にもなく気になってしまった。どうしてそんなおおらかな考え方になったのか。あれか、前世が辛すぎたのがいけなかったのか。

「ガラシャさんは昔も今も純粋なままなんですね。」
「ほむ、父上からは少しは疑うことを覚えなさいと言われるがの。」
「父上って、まさか。」
「光秀だ。この親子の縁は相当強いらしい。ちなみに俺とガラシャは同じバンドで近々メジャーデビューするからよろしくな。」
「メジャーデビューって、あんたらどういう関係なんですか!?」
「バンド仲間じゃ。よろしくの!左近。」

左近には娘はいない。今は独身である。けれども、もし娘がいて駄目な男にたぶらかされるというのはこのように胃の痛むものなのだろう。そう思うとなんだか光秀が哀れで、もし会うことがあるのならば、せめて優しい言葉を掛けて慰めてやろうと左近は固く決心した。







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