※砂を吐く甘さです、お気を付けて。



花札か将棋なら、将棋だ。大抵宗茂がギン千代に話がある時は、彼は将棋を指したがった。理由は単純で花札ならギン千代が勝つからだ。
運が絡んだ勝負なら大抵ギン千代は勝つ自信がある。しかし、長い目と冷静さが必要となる勝負はどうも熱くなって周りが見えなくなり、負けやすい。そんなギン千代をいい戦略は立てるのだから勿体無いと死んだ父はいつも嘆いていた。

その点、宗茂はこういった長丁場の戦いの方が得意だ。軍略を立て、それに沿って動くことにほとんど乱れが無い。それでいて、風のように自由で臨機応変に動くことができるので、彼と彼の軍略には死角らしい死角は無かった。
それに対して、ギン千代は戦だけでは無く全てが真っ直ぐである。宗茂のように器用に動くことなどできなかった。

「また私に謝りたいことでもあるのか。」
「まさか。お前に謝らなければならないような真似はしていないさ。」

白々しい。ギン千代は咄嗟に眉を顰めた。宗茂は私以外の恋人がいながら(そもそもギン千代は妻であって、恋人等といった甘いものではないのだろうが)何も知らない顔でギン千代に接する。
戦と立花を運営していくのに宗茂は最高の伴侶だったが、夫婦という面だけで見れば二人は最低だった。お互いに心が閉じている。
ギン千代は最初こそなんとかよい夫婦になろうとした。しかし、どうしてもその勝ち気な性格と立花ギン千代という誇りが捨てきれず、宗茂に寄り添いきれなかった。宗茂と本当の意味での夫婦になれないのだと悟った時、ギン千代は静かに深く絶望した。

ギン千代は宗茂のことが好きだった。その美しい容姿も自由な生き方も優しい声にも、どうしようもなく焦がれていた。
普通の女であれば笑って後ろについて行くことができた。けれども、ギン千代はそういった普通の女では無かった。華やかに着飾ることも、夫にただ付き従うことも許されていない。普通の女であれば愛されたのだろうか、幸福だったのだろうか。その問いの答えが一生出ないこともわかってはいたが、そう考えずにはいられなかった。

「好きだ、ギン千代。」
「なっ…!」

なんの脈略も無くそう言われて驚きと嬉しさが込み上げてくる。なんということだ、これではそこらの女と同じではないか。これでは立花では無くなってしまう。ギン千代は努めて冷静に対応しようとした。

「いきなり、どうした。大体お前は私が好きではなかったのではないか。」
「ギン千代、お前は俺の魂の半分だ。今までお前が好きだということも、俺自身気が付くことができなかった。今からでもやり直すのは遅すぎるだろうか。」
「魂の、半分。」

そう呟くようにギン千代が言うと宗茂は深く頷いた。
ああ、魂の半分というのならお互いを補うように生きることも、こんなにも宗茂をギン千代が想うことも理解できる。ギン千代はずっと欠けていた魂を探していたのだ。すとんと思考が纏まって行く。

「私は、可愛い女じゃないぞ。お前の後ろに黙ってついて行く事も出来ない。」
「知ってるさ。そんなギン千代が好きなんだよ。」

男の囁きが甘い。顔が酷く熱いのが自分でもわかる。恥ずかしい。そんなことで嬉しがる自分は浅はかだろうか。宗茂はそんな自分を馬鹿にしないだろうか。
そんなギン千代の様子を気にするでも無く、宗茂はにこにこと微笑んでいる。

「そうだ、ギン千代に渡したいものがあるんだ。受け取ってくれるか。」

そう言いながら宗茂が出したのは、多くの櫛や白粉や菓子だ。美しいそれらの後ろには、ずらっと着物や花まで見えた。そのあまりの量の多さにギン千代は目を見開く。

「どこでこんなに買ってきたんだ…。そもそもこんなにお金があったのか?」
「ああ、愛人への贈り物代や俺のへそくり、その時に差していた刀も売った金だ。」

恋に溺れた男は思いの外、色々と重症のようだ。それなのにこんなに嬉しく思うなんて。ギン千代は思わずため息を付く。そのまま彼女が魂の半身を蹴り飛ばしたことが、一種の照れ隠しだということは、お互いが熟知していることである。







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