※そこはかとなく、宗茂が最低です。




「仲の良いことだな。」

陣中でそう言った島津を馬鹿な人間か空気の読めない人間なのではないかと宗茂は思う。しかし、島津は馬鹿でもなければ空気が読めない訳でもなかった。ただ本当にどうしようも無い人間だっただけだ。親しくなっても宗茂は島津の中にあるばくちを愛する心が理解し切れない。それ以外の島津という部分は大体理解できる。何度も戦い、共闘して互いに理解を深めた。今なら間違いなく、宗茂は島津を許すことができる。父親の仇とは関係無く、島津という人間を見ることができる。しかし、鬼の核心に触れたことは無い。触れて理解できると思えなかったし、島津はそういった部分を理解して貰いたいとも思っていなさそうだったので放っておいたのだ。

「誰と、誰がだ。」

多分この男は、先程陣中から出て行った女性のことを言っているのだろう。妻ではない、素直な女。慎ましいその女性に宗茂は癒された。その関係を宗茂は悪いとさえ思っていない。ギン千代が例え知ったとしても、そうか、というだけだろう。ギン千代とは仲が悪いわけではない。むしろいい方だ。戦いの連携はとてもいいし、日常生活でも彼女のはっきりとした性格が嫌いなわけでもない。ただ、妻といるとどこか落ち着かないのだ。それが他の女性に走った理由だと思う。彼女がくれない癒しを他の女性は与えてくれた。ギン千代は美しく聡明な女性だ。家柄も良い。不満なんて無かったが、彼女とて万能では無い、いつしか他の女性を抱く度に宗茂はそう言い訳をするようになっていた。

「坊っちゃんとお嬢が、だ。」
「当然でしょう、私は彼女が好きですから。」

予想が外れたことに驚きながらも、口は言葉を上手く紡ぐ。こんな特技があるから世の女性からもてるのだろうか。だが、きっとギン千代からはこういった所も嫌われているのだ。初めての夜も彼女から少しくらいは黙ったらどうかと言われた。こちらとて、妻となった彼女を必死にリードしようとしていたのにその仕打ち。表面には出さなかったが割りと落ち込んだ。宗茂の苦い青春である。

「儂には、坊っちゃんが好きでは言い表せない位にお嬢に惚れているように見える。坊ちゃんはお嬢以外はどうでもいいだろう。」

とりあえず、島津がロマンチストなのはわかった。恋から一番遠そうな人物から恋愛のアドバイスを受けるのは妙な気分である。

「いい加減、逃げるのはよせ。短い人生だ、一度くらいは恋に溺れるのも悪くないだろう。」

ギン千代のことは好きだ。明るい笑顔が、激しい気性が、真っ直ぐな性格が好きだった。彼女の隣にいると落ち着かなかったのは、どうしようもなく彼女が好きだったからだ。ただ、彼女はいつだって正しくあろうとする。そして、自分と同じような清廉で強いものを好んでいた。しなやかなで自由な強さを得意とする宗茂はその期待に応えきれないかもしれない。そう思った時に、同時に諦めも生まれた。それは酷く甘美な毒で宗茂はすぐにその諦めに慣れ、ギン千代から逃げた。彼女は何も言わなかった。
彼女が愛しかった。自分を受け入れて欲しいと何度も思った。しかしどこかで自分に失望されたくないとも思っていた。夫婦で似たもの同士だというのに二人の好む強さや生き方や価値観は随分と違っていた。その違いから来る溝に目を瞑るのに慣れていた宗茂は自分に嫌気が差す。これでは。

「貴方に言われなくてもわかっていますよ。この戦が終わったら花と櫛でも買って帰るつもりです。」

今からでも彼女は自分を愛してくれるだろうか。他に渡す相手がいるだろうとでも言われたら、結構傷付く。いやいや、自分は浮気をしておいて何を偉そうに。そうだ、甘い南蛮のお菓子も買って帰ろう。それから着物も。本当は女らしい彼女が喜びそうなもの全部を連れてもう一度プロポーズするのも悪くない。

「坊っちゃん、それは死亡フラグだ。」

今なら鬼島津の憎たらしい言葉も笑顔で流せてしまえそうである。死ぬ?何を馬鹿なことを。鎮西一を舐めないでいただきたい。今日の戦が終わったら、可愛いあの娘に会いに行ける。負ける、なんて選択肢あるわけがないだろう。







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