「初めまして、武田食品の島と申します。」
「こちらこそわざわざお越しいただきありがとうございます。ホテル豊臣、九州地方の支部長をしております、加藤と申します。」

まだ年若い青年は深々と頭を下げた。流石全国でも名高いホテル豊臣の九州地方をこの若さで束ねているだけああって身のこなしは丁寧で美しい。左近が思い描いていた銀髪の青年はあの頃と変わらず精悍なままだが、彼を包む雰囲気は柔らかく、髪は黒いものになっている。

「髪を染められているんですか。」
「そうなんですよ、この仕事は地毛ではできませんから。」

そう言った後、清正は自分の珍しい地毛の事を何故初対面の男が知っているのだろうと不思議そうな顔をした。言うべきでは無かったかなと左近は後悔しながら、清正と左近の間にあるテーブルに商品である漬物を並べて行く。清正がそれを開けるのを手伝い、数種類ある漬物を片っ端から試食していく。左近が今日、清正を訪ねた理由は三成の事を尋ねるだけでは無い。

「流石は武田食品さんですね。この地方の漬物の事を良く調べていらっしゃる。」
「そう言って頂けると光栄です。その地方の味を生かしつつ、全国からいらっしゃるお客様の口に合うような味付けになっていますので、初めて食べた方も食べやすいかと思います。それに色んな料理に合わせることができるような味付けにもしてありますので使いやすさも魅力の一つですよ。」

武田食品は漬物を始めとした和食を取り扱う総合食品メーカーである。武田食品は創立当初は長野の小さな漬物屋であったが、現会長である信玄が「漬物で天下取っちゃおうかね」と言い(社員でも噂ではないかと半信半疑のこの言葉だが信玄は本当に言った)、組織を大きくさせ今では外食チェーンや中食にも手を伸ばしている大企業になっている。漬物メーカーとしては業界では一番大きい会社でもある。左近はそこで、こうして新規営業を担当していた。会社を使ったのも、清正にごく自然に会うにはどうしたらいいかと考えた苦肉の策だ。

「わかりました、それではこれとこれ、それからこれもホテルに置きましょう。」
「ありがとうございます。」

商談は簡単にまとまってしまった。商品に自信が無かった訳では無いので喜ばしいことだが少しだけ物足りない気もする。その左近に気付いたのか、実は前から武田食品さんの味は知っていて是非ホテルのお土産に置きたいと思っていたんですよ、と清正はお茶を飲みながらそう言った。どうりで簡単なはずである。

「ところで、三成さんってご存知ですか?」
「三成ですか?知っていますよ。俺の義理の兄弟ですから。」
「今の社長に御二人は育てられたんですよね。」
「そうです。そういえば貴方は三成を探していらっしゃるそうですね。黒田教授から伺いましたよ。またどうして三成を探してらっしゃるんですか。」
「約束を破ってしまったので、謝りたいと思いまして。」
「へぇ、あいつが約束とは珍しい。いつ約束されたんですか。」
「随分昔です。」
「そうですか、あの三成と約束する位だ。貴方はさぞ三成から信頼されていたのでしょう。今はそう忙しくない時期ですので三成なら大坂の本社にいると思いますよ。貴方を紹介した上で、連絡をするように伝えておきます。」
「ありがとうございます。」
「貴方は不思議な人ですね。初めて会ったというのに、初めてだと言う気がしないんです。」
「黒田教授や竹中さんからも同じことを言われましたよ。懐かしい人だと。どこにでもいるおっさんなんですけどね。」

どこにでもいるおっさんにしては筋肉がついていますし、観察力だって高いですよねと清正が苦笑しながら言う。この青年は昔から人を見ることに長けていた。特に公正に見ることができる分、三成とはよく対立していた。そう考えると今こうして会っていること自体が酷く貴重なことのように思えて、左近も苦笑する。

本当にいい時代になったものだ。この時代では暴力は許されていない。差別も身分もほとんど無くなっている。根深いそれらが完全に消えると左近だって思っていない。しかし自分達が生きた時代と比べるとそれは遥かに軽いものとなっている。殺し合いが無い世界を400年前に必死で作ろうとした自分達は報われたのだと左近は目を細めた。







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