左近は有給を利用してある大学を訪ねていた。これまでは政宗と幸村も一緒だったが今回は1人である。1人であることはそこまで緊張する要因にはならないものの、記憶を取り戻した左近にとって前世の者と出会うことは多少なりとも緊張するものだ。それがあまり面識の無い竹中半兵衛だったとしたら尚更だ。しかし兼続があえて左近に半兵衛を紹介したということは相手には記憶があるのかもしれない。それならば話も早いだろうと左近は自分をそう落ち着かせて扉を叩いた。

はーい、入ってくださいと柔らかい気の抜けた声が聞こえたので左近は部屋へと入る。まだあどけない笑顔を浮かべた青年がデスクに座ってこちらを向いていた。勧められるままテーブルに座る。

「せっかく来てもらったんだけど、ちょっと待ってくれないかな。これを仕上げとかないと怒られるんだ。」

パソコンに向かってひたすら文字を打ち続けている半兵衛に気にしないでくださいと言う。忙しそうな彼には申し訳ないけれど、せめて殿の事を聞くことができないだろうか。兼続と会った後から殿と会った時のことをずっと考えている。今までは謝る事ばかりを考えていたが、記憶の有無に関わらずいきなり謝られたら流石の殿だって驚くだろう。驚かれる位ならいいが、殿の短いのだか長いのだかよくわからない堪忍袋の緒に触れて殴られるかもしれない。それはちょっと嫌だ。それに殿がもし記憶を持っているのなら現代でも上手く付き合っていきたい。三成は確かにめんどくさい人だったが左近はそんな真っ直ぐな殿の生き方が好きだった。

「客人が来ているというのに失礼であろう。」

今までテーブルを挟んで目の前にいる存在の事を左近は気に掛けないように努めてきた。声を発した男はなんというか黒い。半兵衛より随分落ち着いてコーヒーを飲んでいるが、なんだか不気味で関わりたくない。ちょっと見覚えがある気もするが左近はこんな怪しい人と知り合いなんかじゃありません。

「そんなことを言うなら官兵衛殿が手伝ってくれればいいのにぃ。」

やはり黒田か。関ヶ原で会ったことある顔だと思ったら黒田なのか。現代になっても独特の髪と顔の色は変わらない。顔は別としても、髪なら脱色できるから脱色しているのかもしれない。聞く勇気は一切無いが。

「半兵衛に一般人が用とは珍しい。」
「いや、なんだか兼続って人が訪ねて来て、清正のことをある人に教えてあげて欲しいって頼まれてね。なんだか三成の事を調べている人が来るからと言われたんだ。兼続さんって人は初対面なのに逆らえなくてね。ねぇ、確か清正って子が官兵衛殿のゼミの卒業生でいたよね?」
「ああ、今はホテル豊臣で働いているな。」

 なんだかすごく申し訳ない気分になって来た。半兵衛は兼続さんと友人なのかと疑ったが完全に被害者だった。それにしても2人ともなんだかいい人である。こうも簡単に三成への関係者を話してくれるとは有り難い。左近の中で三成から聞いた半兵衛は腹黒かったし、徳川側についた官兵衛もどす黒い印象しかなかったが、どうにも現代の2人は良識ある人間のようである。お互いに仲も良さそうだし、現代でも両兵衛は健在であるらしい。

「でも三成って人の事は知らないよね。」
「ああ、知らぬ。」

軍師と言う人間はどうしてこんなに人をあげて落とすのが上手いのだろう。これから清正から上手く話を聞いて三成の事を調べなければいけない。いきなりそんなことを尋ねられたら清正から見れば不審者以外の何者でもないだろう。ああ、まさかこの年齢にして不審者になるとは。左近は目を細めて2人の先にある窓の外の風景をぼんやり眺めた。もう夏も終わりに近かった。







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