※暗いです。



久しぶりにその部屋に宗茂が入ると、小袖姿の妻が座っていた。久しいな、と声を掛けても彼女はああというだけで特に大きなリアクションをするわけでもない。それもいつも通りだった。それは本当は宗茂にとって辛いことだった。立花の家に婿に入ってすぐはその妻の態度や言葉に内心は酷く落ち込んだものだ。若い頃の妻は今以上に男らしい人だった。普段の日常生活でも気が強く多くを語らなかったし、戦にでもなると宗茂より先に走り敵将の首をとる姿はそれはそれは雄々しかった。それはそれで宗茂にとって敬愛の対象にはなったのだが、残念ながら恋愛の対象には成ることは無かった。そう考えれば最近の妻は優しくなったように思う。

そんな妻を何処か避けるようにいつしか仕事や他の女性に宗茂の心は奪われるようになった。至極当然な反応だと自分でも思うし、それに対して妻は何も言わなかった。ばれていなかったのだろうか、と思うが聡明な彼女ことだ。知っていてこの反応なのだろう。寂しい、そんな風に思う心もまた宗茂の中ではあの若い頃に置いて来てしまった。そのせいでもあるだろう、夫婦の仲は恐ろしい程に気付けば冷めてしまった。2人の会話はどんどん少なくなっていた。逆に仕事の話の事になるとお互い饒舌だったから寂しかったともいえる。しかし、宗茂は妻の事が決して嫌いでは無かった。むしろその性格と容姿は好みでさえある。それ故に分かり合えないことが辛かった。

「結局、お前は私の事など嫌いだったのだろう。」

妻がこのように己の感情、しかも何処か弱気で女らしくさえある感情を吐露したことは宗茂の記憶には無かった。愛しいという感情と自分の気持ちも伝えず、宗茂の事を考えずに自分の感情そのままに言葉を発する彼女に対して怒りさえこみ上げる。確かに妻は女性らしくなった。宗茂に気を遣う姿はとてもいじらしかったし、そんな彼女を今でも愛おしく思っているのは事実だ。

「さあな。」

宗茂の中でいつの間にか妻に抗うことはまるで意味の無いことになってしまっていた。そうしてはぐらかして、妻と向かわないことは酷く楽で、彼女を愛そうと歩み寄ろうとするために宗茂にとってなくてならない処世術だった。それ以外の方法など無かった。

「お前はいつだってそうだな。」

妻の声に諦めと怒りが含まれていることがわかる。いつだってそうなのは、彼女の方だ。いつだって宗茂を否定し、彼女の夫たるべく宗茂を律したのは誰でも無い彼女だった。諦めたいのは宗茂とて同じだった。そうして逃げる彼女が憎くて羨ましく思う。溝はもう埋まることは無い。宗茂と彼女が夫婦である限り、その溝を埋め続ける作業は終わることは無い。これは祝福などでは無い、呪いである。

そうして分かり合おうとして2人はいつだって相手を傷付けることしかできなかった。そうするしか無かったと宗茂は思っていいたし、それ以外の生き方もわからなかった。正しいのではないということはなんとなくわかる。だがどう正すべきなのかは彼にも多分彼女にもわからない。


気付けば、彼女は部屋から、宗茂の視界の中からいなくなっていた。





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