「ところで、お二人以外に記憶が鮮明な方はおられないんですか。先程の話ではほとんどの方が記憶が無いみたいですが…。」

いち早く立ち直った政宗が嫌そうに顔を顰めた後、おるにはおるが、と絞り出すような声で言葉を紡ぐ。

「大体、お主は何故そんなにも記憶を持った奴を探すのじゃ。今から記憶を持った奴らに会うて何の意味がある。済んだことはもう戻らぬ。お主が探しておるであろう三成も今更お主と会っても何も変わらぬわ。」
「左近殿は三成殿を、探しておられるのですか。」

諦めを促す政宗に比べて、幸村は複雑そうな顔をしている。同じように小さな頃から記憶を持っている二人だがどうも記憶を持った人間に接する考え方は違うらしい。前世(といってもいいものか)の人間関係を持ち込む気は更々無さそうな政宗とそれを割り切れていない幸村。人間が違うのだから考え方は当然異なってくるだろうが、ここまで正反対だと以前の彼らを思い出してしまい、なんだか懐かしくなってしまう。この2人はいつだって仲がいいのに、その境遇や生い立ちからか考え方がほぼ異なっていた。それゆえ気付けば口論になることも多々あった。それを殿は不思議そうに見ていたし、兼続や慶次は若いと笑っていた。

「左近殿、私も政宗殿と同じく、今の世で三成殿に会うべきではないと思います。しかし、左近殿の気持ちを考えるとお会いしたい気持ちはよくわかります。政宗殿、なんとかならぬでしょうか。」

政宗は先程と同じくらい顔を顰めた後大きなため息を吐いた。左近はその時はっきりと政宗の「また儂か。」という声を聞いた。これまで何をしたんだ、幸村。あ、慶次殿か。慶次殿関係で政宗は何かしてくれたのだろうか。しかし、先程の政宗も絶望した顔を見るとそれも違う気がする。そもそも左近は幸村から政宗のことは同い年で同じ高校としか聞いていない。幸村が頼る程政宗とは高校生だと言うのにすごい人物なのだろうか。確かに戦国時代では大大名だった。左近がそのように頭を回転させている間に政宗はわかった、と仕方なさそうに言った。

「慶次か孫市に頼もう。」
「え、兼続殿では無いのですか。」

政宗に頼っておきながら自分の案をちゃっかり提案する幸村に心の中でつっこみと一種の恐ろしさを感じながら左近は2人の会話の行方を見守る。やはり自分の提案を却下されたことに政宗は腹を立てているらしく残ったお冷を一気に飲みつくし、テーブルにグラスをだん、と降ろすと馬鹿め!と叫んだ。

「お主が何か策は無いかというから練ってやったのに何故兼続が出てくるのじゃ!あいつとは会わん!絶対に会わん!というかそんなやつ知らん!」
「政宗さん、兼続殿と知り合いなんですか?」
「違う!あんなの知り合いでもなんでもないわ!」
「なんというか、政宗殿の父上の知り合いらしく、警察官をしておられるそうです。私は一度も会う機会がなく、会いたいと申しているのですが政宗殿に拒まれてしまって。」
「ほう。」
「幸村ァァ!簡単に喋るな!」
「会わせてあげたらいいじゃないですか。」
「貴様らは直江の恐ろしさを知らんからそんな事を簡単に言うのじゃ。」
「熱い人ではありましたけど、恐ろしい方ではありませんでしたよ?第一兼続殿には記憶は無いんでしたよね?」
「いや、絶対兼続には記憶がある。本人はいつもはしれっとしておるが、一度すれ違った時に「山犬…。」と言われた。絶対記憶ある上に逆恨みして居るじゃろが。」
「それは…。」

警察官をしている兼続さんにも驚いたがそれとこの時代でも付き合うことになるとは政宗さんも運がないというか不幸というか、むしろ巡り巡って本当は仲が良いのではないかとさえ思う。確かに2人は出会えば常に喧嘩をしてお互いを罵っていたが、そんなことは信玄公と謙信公にもあったし、若干認めたくないのだが佐和山にもあった気がする。その場合、曲がりなりにも主従関係であったので殿からの剛速球にひたすら耐える日々だった。言っておくが仲が悪かったわけでは決してない。殿なりのスキンシップが毒舌だっただけだ。不器用なだけだ。うん、そういうことにしておかないとなんだか辛い。

「でも会いたいんですよ。兼続殿が記憶を持っていたとしても私とはこの時代では初対面ですから色々と話しにくいのです。」
「あ、じゃあ俺と一緒に兼続さんに会いに行くかい?」
「いいのですか、嬉しいです。ありがとうございます。」
「ちょっと待て。それは儂が紹介することが大前提ではないか!」
「ああ、政宗殿は行かなくてもいいので大丈夫です。」

なっ、と政宗は酷く不快な顔をした。多分この時代の政宗にとって幸村はいい弟分なのだろう。その弟から突然渡された引導。自分はいらないと言われたことにより傷つく自尊心。もとからこの人は自尊心が高いだろうに。何より兼続は嫌だがこの真っ直ぐな青年との距離も政宗にとって心地がよくないのだろう。うん、わかる。政宗さんは政宗さんなりにこの時代では戦国時代で殺し合いまでして、救えなかった幸村に出会って今度こそはいい関係を築こうとしているのだろう。そのひたむきな努力には思わず感動して涙が出そうである。まぁ、今の政宗と幸村の距離を作ったのは間違いなく自分自身だけれども。

「わかった、儂も行く。」

絞り出すような声で政宗がそう言ったのも心底自然流れであったにしても、隣でありがとうございます、助かりますとしれっと言う青年を少しは止めておけばよかっただろうかと今更ながら左近は後悔した。






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