※グロ注意!死ネタです!





くしくもわたしとあなたはであったので



横たわる風魔を半蔵は見ていた。まだ息はある。しかし、立つことがもう無いことを半蔵は知っていた。大坂の陣で乱世は死んだ。幸村だけで無く、敵味方問わず多くの優秀な武将や忍が死んだ。その一人に風魔もなろうとしていた。半蔵が裂いた風魔の腹からは血がとくとくと流れている。その裂いた皮膚はめりめりと独特の不快な音と共に塞がりつつある。全身の皮膚がそうして塞がれていく。信じ難いことだが、彼の忍にはそれが可能らしかった。しかし、もうその再生もじきに意味が無くなる。半蔵が裂いた皮膚や内臓は数百にも上る。全ての臓器が再生するより早く、その体液の多くは戦場に滴ったはずだ。風魔の独特の体を知って半蔵はそうして殺すしかないとずっと思っていた。そうして、いつかこういう日が来ると半蔵は知っていた。何故なら半蔵の主は天下を必ず取るからだ。

風魔は自分の再生する体を見ながら笑っていた。目と口しかもう動かないのだ。急所という急所を突かれてもまだ生きているその姿が恐ろしくもあり、化け物染みているのに何より人間らしかった。

「気味が悪いか。」
「否。」

風魔らしくない言葉に少しだけ半蔵の心は揺さぶられた。そんなことを気にするような男では無かった。自分がいかに人間でないかを誇っていた男であった。風魔は常人には決して持ちえない体と精神を持っていた。それは風魔が人間では無かったからだと半蔵は今でも思っている。

「半蔵、人というものはどのようなものだ。」

風魔の問いは大抵わけがわからないか、風魔自身の好奇心だけで作られている。いつもは無視をするのが半蔵の常套手段であったが、今は風魔が話始めると再生をやめた皮膚に目が行っていた。風魔には、もう再生と言葉を口に紡ぐ動作が共にできないのだ。これは。半蔵は思う。風魔が、化け物が、乱世の犬が死ぬ。嬉しいはずのそれを半蔵はなんだか寂しい気分で見ていた。

「人は、虚しい。」

半蔵には何が虚しいのか、正直よくわからなかった。ただ、朽ちていく自分の同業の化け物が死んでいくのが少しだけ虚しかった、それだけだ。人間とはどういうものか、半蔵にはわからない。確かに半蔵は人間であった。しかし自分のことは影だと、人にして人では無いとも自他共に云い聞かせてきた。だから風魔の問いにも上手く答えることができないのかもしれない。だが、風魔は半蔵の答えを聞くと嬉しそうに笑った。

「なれば、我も人か。我は今、虚しい。だが、それ以上に嬉しい。我はようやく、人に成れた。」

半蔵はどう答えていいのかわからなかった。風魔の再生を止めた体がちりちりりと崩れて、地面と同化していく。ここにきてようやく半蔵は風魔が、この人では無いものが人であることを切に望んでいたことを知った。

「半蔵喜べ。これが終ぞ。乱世は我と共に死ぬ、もう蘇らぬ、我は眠る。」

末端だけでは無く、どんどん皮膚が暗褐色になり、錆びたように崩れていく。これ程の術は半蔵の里では禁止されている。人の倫理を外れすぎているからだ。手を出してはならぬ、半蔵はそう頭領から習ったし成長しその術を知ってなお、今の後継に教える気は一切起らなかった。おぞましい術だった。何人の人間がその犠牲になったのだろうか。風魔一人の脳味噌は何人の人間で成り立っているというのだろうか。時代を増すにつれ、きっと風魔は人では無くなってしまったのだ。その力が半蔵には羨ましかった。やるべき術では無いことは重々理解し、犠牲にするものがあまりにも大きすぎることを理解してなお、巨大な力に半蔵は羨望を覚えた。過去に主の妻と子を斬らなければならなかった。この手で見捨てた仲間も、数え切れない。全ては半蔵の力不足故だ。それが時代のせいであってたとしても半蔵にはそうは思えなかった。力が欲しい。半蔵は今こうして乱世が死のうとしてもそう思わずにはいられないのである。化け物であった風魔は最後に人になって死んだ。半蔵とて化け物程の力が欲しい。しかしそれでは太平の世は生きられぬ。半蔵が守りたいものの多くを犠牲にしなければその力を得ることはできぬ。どこまでも半蔵は人であった。人でなければ、乱世より先には行けないことも彼は知っていた。

風魔の穏やかなその死に顔を見るのが嫌だった。先に死んでしまった乱世の化け物のその生き方を最後まで半蔵が口に出して羨ましいと言うことは無かった。






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