法の元に人は



空気が澄んでいる。
長政は出来るだけ早く、馬を飛ばす。遂に朝倉は助けに来なかった。それに対しての恨み言は全くない。家臣や父は眉をしかめ、何か言いたそうだったが何も言わない長政を見て口を閉じた。頃合い、でしょうなぁ。家臣の寂しそうな声が長政の耳に届く。申し訳ないと思った。家臣を生かすことが長政にはもうできない。いや、正しくは出来るのだが長政の心にその選択肢は存在しない。だから、家臣も最後までそれに殉じようとする。そのような真っ直ぐで正しい主に仕えることができたことが彼らにとって何よりの誇りだったからだ。

長政はまた馬を飛ばす。その間も槍で敵を突く。そもそも敵とは何なのだろうか、長政は思う。きっとこの兵にも家族がいるのだろう。某が望んだことは。ふと兵達の先に小柄な人が見える。長政は強く手綱を引き、馬を止めた。その人とは数度しか会ったことがなかったがその中でも一番険しい顔をその人はしていた。歩み寄れば、奇妙な武器を構える。その容姿をずっと長政は愛らしいと思っていたが、口にすれば怒るだろうと思って口にはしなかった。長政自身も、中性的な容姿をからかわれたことがあるからだ。その時はそういった見方もあるのかと驚いたが、周りにいた家臣はえらく憤慨していた。ああ、どうにも某は鈍感らしい。

「小谷はいい所でしょう。」

なんと場違いなのだろうかとも思ったがこれしか言葉が思い浮かばなかった。相手もやはりその言葉に呆れたような顔を一瞬見せた。ああ、と相手の口から言葉が零れる。その唇は赤くてとても柔らかそうなのに、辛辣な言葉を紡ぎ出す。

「あーあ。俺、結構貴方の言葉を信じたんだよ。」
「申し訳ない、まだ皆が寝て暮らせる世はできそうにありません。」

ふふ、と不思議な笑みを浮かべながら軍師はこちらへ2歩、3歩と歩み寄る。

「いつ、そんな世は来るんだろうね。」
「某が信じている限り、貴方が信じている限り、必ず来ます。」

思いっきり顔を顰めた軍師に長政は苦笑する。腕を伸ばしながら、背中を見せる軍師、半兵衛は自由気ままだ。長政には少しだけその姿が羨ましい。どこまでも飛んでいけるのだろうなぁ、長政は地べたを歩くことしかできない。地べたが恋しい自分はそうするしかないのだ。その小さいながらも大きな背中に槍を撃つ。寸でで武器に絡め取られた槍と少しだけ驚く半兵衛。

「あなたはどこまで、本気なんだろうね。」

弾かれた槍と、首筋を狙う羅針盤。もうお互いに笑いなどしない。常に本気です、長政は言う。多分、寝て暮らせる世等戯言のようなことを言っている半兵衛が真剣なことも長政は知っている。泰平を望んでいるのに、互いに引けない虚しさを長政と半兵衛は噛みしめ合う。こんな思いはもうしたくないなと長政が言うとそうだねと半兵衛も言った。






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