約束しようと、彼は言ったB
じゅうじゅうとお好み焼きが焼かれていく。ソースの焼ける臭いが香ばしい。ひっくり返したお好み焼きにソースを素早く塗り、青海苔をかける。その手際のよさに左近は見とれていた。
「できたぞ。マヨネーズは好みでかけるがよい。」
「結構器用なんですねぇ。」
マヨネーズをかけながら左近は相手を見る。幸村と同い年だという、茶髪の青年。マヨネーズは好みではないらしく、早速お好み焼きを口に運んでいる。一口食べて味に満足したのか、水を飲み左近の方に向き直り、不適に笑う。
「それで儂に用というのはなんじゃ。」
この明らかに年上を見下すような態度は、独眼竜伊達政宗以外にはやはりありえないなと左近は小さく笑った。
「いや、ちょっと幸村以外に記憶が蘇っている人に会いたいと思いましてね。」
政宗はそれには答えずに黙々とお好み焼きを咀嚼している。左近は苦笑しながら政宗を見ていたが、ふと視線がある人物を追っていることに気付きその先を見る。その先にいるのは制服であろうエプロンを着けて、お好み焼きを焼く幸村の姿だ。高校生のくせに手慣れている。
「あやつと儂が出会ったのは幼稚園の時じゃったな。あやつはいつも隅にいてな。儂は2歳に目をやられた時に記憶を取り戻したから、それが幸村だとすぐわかった。だから声をかけた。幸村ではないかと。あやつは何て言ったと思うか。」
左近は首をかしげながらさぁねぇ、幸村のことだから喜んだのではないですかと応えた。当時を思い出しているのか、懐かしそうな顔をした。
「あやつは最初は驚きながら、それでもはじめましてと言った。儂は幸村以外にあの時代の人には会ったことが無かったから、いつもは話さない記憶のことを話し、幸村が思い出してないか聞いた。幸村はな、すべて思い出していたのだ。しかし、それを言うとおかしいと、異常だと言われてきたのだ。だから儂にも最初は自分を偽っていた。」
あやつも苦労した口じゃ、と政宗は寂しそうに話した。政宗も記憶により異端視されたのだろうかと左近は思った。
「幸村は儂が記憶を持っているとわかると嬉しそうだった。それからお手合わせをと言われたので、幼稚園で手合わせをしたな。儂も嬉しかった故その時は、付き合ったが後で保育士に死ぬほど怒られた。まぁ、周りから見たら単なる喧嘩だからな。でも儂は嬉しかった。あやつには平和な世界で生きて欲しかったからな。」
政宗は幸村から視線を左近に戻す。表情はこの上なく穏やかだ。
「長い話をした。儂と幸村の出会いはこのようなものだったな。それから10年以上長い付き合いになっておる。」
左近も若い二人の話を聞いて多分今、自分は幸せな顔をしているだろうと思った。そして平和なこの現代に三成が蘇り、穏やかな日々を送っていることを願った。