辺境の地で花は咲く


忠勝はただ待っていた。
きっとあの真っ直ぐな青年はここを通り、徳川本陣へと足を進めるだろう。それを止めるために自分はここにいる。ここ、大坂城は昔はもっと賑やかで美しい所だった。いつの間にか流れは滞り、政治の中心でなくなった城はただの建物になった。それが絶望を呼んでいる。大坂城の周りには、血生臭い死体か前の時代の遺物しかない。哀れだった。

忠勝がはじめて青年を見たのは戦場であった。敵に向かい猛々しく槍を振る姿は忠勝の武士の心を強く撃った。あの時と何が違うのだろうか。青年の父親が死んだことだろうか、兄が敵方についたことだろうか、噂に聞く友をなくしたことだろうか。青年は何を失い、このように死に場所を求めているというのか。

不意に空気が凍る。
今までのような風の流れはなくなり、重々しくなった。そこに幸村は来た。あまり汗をかいたり息を切らす人ではなかったのに彼は槍を携え馬も使わず走ってきたため、満身創痍であった。老いたのではない、この姿は彼の壊れそうな心を反映したものだ。彼には直し方がわからないのだ。大勢の人間が彼を鬼と呼ぶだろうけれど、目の前にいるのはただの負けた人間だ。しかし、あの頃と変わらない青年のままの心で彼は私と対峙した。待っていた、と言うと彼は少しだけ口角を上げ、ご迷惑をおかけします、と言った。否、とだけ私は言って、槍を構えた。

「通りたければ、私を倒せ。」

端的に言って私は幸村を救いたかった。婿や娘のためでもある。しかしそれ以上に無骨なこの武士に居場所を与えたかった。

参りますと言った幸村の槍が私の腕を狙う。その軌道を槍で払い、一度、二度と撃てば幸村は素早く引き寄せた槍でそれを防ぐ。弾かれた槍を大きく降り下ろせば、幸村も槍を大きく降り下ろし、鍔迫り合いになった。近くで見ると、幸村は大層疲労していた。彼を駆り立てるものは未だ満足していないらしくその目は酷く飢えていたが。

「殿の首がそこまで欲しいか。」
「欲しいです。あの利にのみ生きる家康殿の首をはずさなければ、この国は駄目になってしまう故。」
「殿は利のみでは動いておらぬ。殿には殿の義がある。」
「知っております。しかし私には家康殿の義が理解できない。受け入れることができないのです。ああ、きっと私は狂っているのです。激しい感情に流される自分を止めることができません。だから、私は行きます。」

弾かれた槍にお互いがまた距離を空けたが、次に動くよりさらに素早く幸村が私の横を抜けた。

「哀れな。」

真っ直ぐに本陣に走る幸村の背中を見ながら、馬を引き寄せる。彼はすべて知っていたのだ。本当に哀れなのは、時代に抗う彼か、時代を作る側にいる自分か、それとも役目を果たした武士そのものだろうか。忠勝は駆け寄ってきた馬に飛び乗り幸村を追った。少なくともまだ武士が生きる意味はそこにはまだあった。







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