好き合い、嫌い合い


木漏れ日が気持ちがよい。
このような日はこうして縁側で日を浴びていることが最上だ。このように穏やかな気持ちになったのは初めてかもしれない。年老いて、病で伏せてなお、生きることが愛しいとは。若い頃より動かなくなった四肢を動かせばゆっくり動いた。

ふいに、日光が遮られる。見上げれば、派手な隈取りをし、巨大な武器を持った慶次がいた。その雄々しい姿は若い頃から色あせることが無い。

「叔父御、久しぶりだねぇ。」
「ああ。お前は相変わらずだな。」

こうして、慶次と話す度に利家の心は揺れた。前田のためと、武士らしく生きてきたがどうも慶次の前だとただの人間になる。若い頃はそれが怖くて、反発もした。しかし、今こうして穏やかな気持ちでいるとそうではないのだと思う。きっと慶次という人間が怖いのでは無かった。慶次の後ろにある前田の家や血が恐ろしくて仕方がなかった。背負えるか不安だった。失ってしまうのではないかとどこかで思っていたのだと思う。

「上杉でさ、一段落ついたから来たんだ。伯父御がまたしょげてないか心配でさ。」
「そいつは杞憂だったなぁ。今でもまつに働き過ぎだと怒られるくらいだ。」

そうかぁ、そいつはよかったと慶次はくつくつ笑う。豪快な笑い方では無く少しだけ深みのある笑みを浮かべる慶次を見て、ああ、こいつは変わったのだと思った。しかし、自分も変わった。落ち込む時間等無く、確実に老いは体を蝕んでいる。まだ戦いたいと思うが、この後に控える徳川と豊臣の衝突は止めることはできまい。しかし。

「狸と狐が餅を食べようと喧嘩しているらしいじゃねぇか。」
「喧嘩とは相変わらずだな、慶次。お前は本当に怖いものなど無いのだろうな。」

慶次は肩を震わせ、前に出た。3歩と進んでくるりとこちらを振り向いた。逆光の中の慶次は確かに老いていた。その、自分より幾分か若い甥は険しい顔をしてやっぱりかぁと呟いた。

「伯父御はそうやってその歳になっても、悩んでるってのかい!」
「本当に相変わらずだな、慶次。」

睨む顔は、我が甥ながら恐ろしい。けれども、俺は笑っている。静かに微笑んでその威圧感に耐える。最後の仕事はもう決まっているのだ。慶次に言われなくてもそれはなされると、俺の心は知っている。俺は穏やかだった。そんな俺を見て慶次は口を瞑った。少し意外そうな顔は慶次にしては珍しい。そうかい、と言って慶次は大きく息を吐いた後、そいつはよかったァと言った。俺はまたそんな慶次を見て笑った。

「なぁ、慶次。お前はこれでよかったか。」
「俺はいつでもいいと思ったことしかしてないさ。」

元の調子に戻った慶次を見ながら、俺は心底安心した。ああ、この感覚だ。何か大きなものを目の前にして立ち向かうということは。そしてその感覚が何より好きだった。俺はまだ老いてなどいない。火蓋はもう切られている。ならば戦わなければ。この手で切り開くことが出来るかが問題で最初から自分のことなど二の次である。そんな自分の明け透けで、真っ直ぐな性格が煩わしくも好きだった。俺もこれでよかったよ、誰にも聞こえないように心の中で小さく呟いた。






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