約束しようと、彼は言ったA


さて、殿を探そうと決めたはいいがどこをどう探していいかがわからない。何より記憶が甦ってから気になることがありすぎた。

まず、自分の会社の社長が信玄だったことに左近は驚いた。営業の成績を表彰された時に社長と直に会ったが、やはり信玄公で間違い無い。一言二言、話してみたが記憶が戻っているのかいないのかがわからないのが流石というべきなのか。他社を吸収合併することで有名な人だったが、まさかこんな所で才能を開花させているとは。

それに信玄公以外でも似たような境遇の人間がいることがわかった。例えば、信長が大手通信会社の社長になっていて、インタビューを受けているのをテレビで見て心底驚いた。よくよく聞いてみれば、濃姫や明智もいるらしい。この時代になっても同じ人物とはご苦労なことだ。しかし、彼らのような、立場上声をかけにくい人物には接触しにくい。近い人物から攻めなくては。

思い立って、隣の家の庭を見る。ジャージ姿の幸村を確認して、階段を駆け降り庭に出る。

「精が出るな。」
「ああ、左近兄さん。お久しぶりです。今日はお休みなのですか。」
「成績が今年もトップだったからな。お前は剣道の練習か。」
「大会が近いですからね。体を壊さない程度に、型を仕上げたいのです。」

じりじり暑い庭で、幸村はまた竹刀を降ろした。小さい頃から幸村を見てきて左近兄ちゃんから左近兄さんにまで呼び名は変わったが、改めて今の世でも関わるとなると不思議である。というか左近兄さんって何だ、間違ってはいないがなんだこのむずがゆい感じ。
それにしても幸村の体力と太刀筋は武将の時とさして変わらない気がする。小学、中学そして高校でも天才と呼ばれ全国大会でもひときわ輝いているだけはある。正直、平成の現代の男子高校生とは思い難い。これはいけるかもしれない。男、島左近。武将であった時は策士だった。その策を今披露しないでいつするというのだ。

「大阪、夏の陣…。」
「え、なにかおっしゃいましたか?」
「いや、大阪夏の陣ってどう思うか…?」

明らかに変人である。策など無いに等しい。今まで築いてきた左近兄さんはここで崩れた。夏はお前の頭だとか思われてたら、辛い。明日から挨拶はしてもらえないかもしれない。時々持ってきてくれるおすそわけの五目御飯が食べられなくのも辛い。しかしこの青年はいつも通り爽やかな笑顔でこう言い放った。

「ははは、私があの無念を忘れたことがあるとお思いですか、左近殿。」

かくして、鬼は現代にも蘇っていることが証明されたのである。





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