約束しようと、彼は言った


「殿、生きて下さいよ!」

そう叫びながら目を覚ませば、仕事先のデスクが見えた。今までも仕事をしていたんだと思う。そもそも眠っていたのかどうかわからない。コーヒーはまだ温かく、湯気が立っている。窓を見れば外は真っ暗だ。会社には俺しかいない。

夢の中のことを思い出すと、農民のような服を着ている美しい人がいた。赤茶色の髪が印象的だったその人は、左近にとって命と呼べる存在だった。

しかし、左近は昭和の日本に生まれた一般家庭の男性である。殿と呼べる存在などいないし、農民が来ているような和服をまわりの人間が来ていることも最近ではほとんど見ることもない。でも、左近は、あれは殿だったと思う。殿、とは誰なのか。

そこで左近の記憶は急激に加速する。安土桃山時代、豊臣秀吉、佐和山、関ヶ原。ああ、あの人は。左近の口から気の抜けたような声が漏れた。全てが左近の中で通じた。あの人は石田三成で、自分が仕えた殿だった人だ。しかし左近が学校で習ってきた歴史では石田三成は関ヶ原で負け、斬首されていた。そうか、殿はあの後捕まって殺されたのか。結局、俺は殿を救えなかったのか。殿は死んでしまったのか。

「駄目じゃないですか、殿…。」

生きると言ったのに。逃げると言ったはずなのに。しかし、こんな過去の記憶を甦ってしまってもどうしようか。

「とりあえず、殿でも探しましょうかねぇ。」

それならば、会った時になんと言えばいいのか、それが問題だと左近は思った。





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