マルコは首を傾げた。

昔自分の家族に喧嘩を売ってきて負けた男のことは、それほどよく知っている訳ではないがと自身に前置きしながらもその光景に首を傾げた。

空から見かけた時も、それが不思議に思ってちょっかいをかけてみたくなって羽休めを口実に降りてみたが、やはりどうもおかしい。

マルコの記憶に間違いがなければクロコダイルという男は冷静ぶった激情家で、少々残忍性をはらんだ男だったように思う。カリスマ性やその他の特筆するところはさて置き、最低限で表すならこれが最適ではないかと思う。

そんな男が子供好きかどうかという情報はマルコが知るはずもないのだが、子供好きというイメージを誰がもつだろうか。

少なくともマルコは持っていなかった。

きゃっきゃと二メートルを超えた巨体にじゃれつく子供を、笑顔でもないが顰めっ面でもないクロコダイルがあやす。異様だとマルコは思った。

「クロコダイル!ブランコやって!」

「あ?」

当たり前のように鉤爪に子供をぶら下げて揺らしてやる様は、いくら血気盛んな年齢は通り過ぎてしまったとは言え、自分の緊張感の類を綺麗に奪い去ってしまう何かがあった。

気が抜ける。まさにこれだ。

不思議な子供だなあと、出されたラム酒をくいっと煽る。このラム酒が振る舞われた事も奇跡に近いのではないだろうか。

「クロコダイルが子供好きとは思わなかったよい」

「あ?好きなわけねェだろ。寝言は寝て言え」

「ええー」

そんなに可愛がっておいてそれを言うかとマルコは笑った。それにつられるように子供もけたけたと笑い声を上げ、器用に鉤爪にじゃれつく。逆さまにぶら下がってみたり上ってバランスを取ってみたり、一々切っ先を刺さらないように気を使っているクロコダイルはマルコからすれば頭でもぶつけたかと疑うほど可愛がっている。

「ソル、疲れた降りろ」

「はーい」

流石に上られるのは腕がつらかったのかとまたマルコが笑う。それを非難するわけでもなく横目で見やって紫煙を吐き出す七武海様はえらく機嫌がいいらしい。

「ソルはえらい甘やかしてやってるように見えるがねい」

にやにやと笑いながら言ってやればふんと鼻で笑いながら嘲笑地味た笑みを返された。

「俺の勝手だ」

「マジで認めたよい!はははは!」

信じられないものを見たと笑い転げるマルコを見てソルも子供特有の高い声で笑い声を上げた。確かに人懐っこいが、あのクロコダイルが絆されるとはとマルコの笑いは収まらない。

「俺もクロコダイル好きー!」

両手を広げてそう高らかに主張した子供に満更でもない顔をしたクロコダイルに、いよいよ酸欠になるほどひいひい言いながらマルコは笑い、いい加減癪に障ったのか思い切りどつかれひきつるように笑いを引っ込めた。

「あー…っ、久しぶりにここまで笑わせてもらったよい…ははっ!」

「さっさと帰れ、本当に鳥類はうぜえのばかりだ!」

「不死鳥帰るの?」

「…もう十分遊んだだろうが」

また堪えきれなくなりそうな笑いがこみ上げ、肩を震わせながらソルの頭をわしゃわしゃと撫でつけた。

「また遊びに来るよい」

「また空飛んでよい!」

横から響くドスの効いた声も気にせず、不思議な子だなぁとマルコは思った。

クロコダイル程ではないにしろ子供受けがよくはない顔つきの自身にもほいほい懐いて怯えることなく笑いかける。何というか、ものの見事に絆される。

「二度とくるな」

「また来てねー!」

ぶんぶんと手を振る子供に手を振り替えし、マルコは甲板を蹴って宙を舞った。今度は手身上げの一つでも持ってくるとしよう。

クロコダイルが可愛がるのも何となく分かる気がすると、小さくなる笑顔に大きく羽ばたいた。