「クロコダイル!鳥!」

その声に、子供に付き添って悠々と午後のブレイクタイムを過ごしていたクロコダイルは指差す空を見て、あー、とらしくもない間延びした声を出した。クロコダイルの少しばかり嫌そうな顔に気付いた様子もなく、不死鳥!と子供が叫ぶ。

「やめろ。来るだろうが」

そう言ったクロコダイルの声も虚しく、その青い火の鳥はくるりと旋回してこちらを見た。

あ、これ来るなと予想したクロコダイルの予想通りにその不死鳥マルコはなんとも華麗に、よお、と片手を上げて甲板に着地した。それにきゃー!と歓声を上げた子供の横で、クロコダイルは露骨にため息を吐く。

「ちょっと羽休めさせてくれよい」

「断る」

気怠そうに吐き出されたセリフにお前は友人か何かかともう一度ため息を吐いて、騒ぎ立てる子供を膝から降ろした。途端に物珍しげにマルコに目を輝かせて駆け寄る姿に、どうやらクロコダイルは妥協をせざるをえないらしいと眉間に皺を寄せる。

相変わらず警戒心のない子供だ。確かに、むやみやたらに害を振りまく男では無いのだが。

「お前の子かい」

「ちげぇよ」

「おれソル!」

「よお、ソル。俺ぁマルコだよい」

ひょい、と子供を抱え上げ高い高いをするように体を持ち上げればいつも通りに上がる歓声。おーおー人懐っこいねいとマルコも笑ってやいやいと一緒になってはしゃぐ。その様子に、クロコダイルはまあいいかと飲みかけていたスコッチを口に含んだ。

「どっから拾ってきたんだよい」

「ドフラミンゴの野郎が置いて行った」

「へえ」

ひょーいと宙に投げられきゃー!と歓声を上げながらまたマルコの腕に収まる子供。落とすなよとクロコダイルが言えば落とさねえよいと返されクロコダイルは葉巻に火をつけた。

手慣れた子供のあやしっぷりにこいつ子持ちだったかと首をひねるが、恐らくは違うだろうとスコッチで葉巻の苦みを流し込む。まあいいか。構われてはしゃぐ子供を見ながら普段よりは気の緩みきったクロコダイルに気付くものは生憎この場にいない。

決して仲良くはない男が何故か甲板で寛ぎだしたのを見てクロコダイルが飲みあげたグラスを投げつけたのは、単純に我に返ったクロコダイルの対応である。

「ソル、空飛んでみるか」

「飛びたーい!」

「乗せてやるから飯くれよい」

何故不死鳥マルコが馴染んでいるのか、そこには気付かぬふりをした。