きゃー!と朝一の歓声にクロコダイルは報告書を読みながら飲んでいたコーヒーを下ろした。

駆け寄ってくるわけでもない、外から聞こえる歓声に腰を上げ、船室から通路へと続く扉を開けた。また、きゃー!と歓声が上がり、大きく波が撥ねる音がして眉を寄せた。

通路から甲板へ足を進め、どれだけ大きな声で歓声を上げたんだとその声量になんとなく感心し、通路と甲板を仕切る扉を開けた。

きゃー!という三回目の歓声と共に、ざばーんと海が音を立ててそちらを見やれば海王類が一匹跳ねまわっていた。

なんでこんなところに海王類がいるんだと眉をひそめつつ、こっちに来られたら厄介だなと首をかいた。海上での戦闘は苦手分野だ。

また海王類が大きく跳ね、ざぶーんと海が音を立てる。それに歓声を上げた子供は、やはり警戒心が足りないとクロコダイルは肩をすくめた。

「クロコダイル!でっけー!!」

欄干の隙間に顔を突っ込んでいた子供はようやくクロコダイルに気付いたようで、両手を上げてその感動を訴える。

「食われてもしらねぇぞ」

ここは水族館ではないというのにと、コートから葉巻を取出し火をつけふかす。やはりこの子供はどこかネジが外れているらしい。

ざぶーんと一際大きく跳ねた海王類は疲れたのか満足したのか知らないが跳ねるのをやめて此方を伺い見て、きゃっきゃと喜ぶ子供を見てからその顔を海へ沈めて行った。その様に煙を吐きながら、駆け寄ってくる子供を受け止めひょいと抱え上げた。

「すごかった!」

「そうか」

まあこちらに来なかっただけ良しとするかと、クロコダイルは煙草をふかす。

自身もどこかネジが飛んできていることに、クロコダイルは気付いていなかった。