今日も今日とて子供は喧しい。

きゃっきゃとわめく姿を眺め、今日も今日とて葉巻をふかしながらクロコダイルはその後を着いて歩いた。

決済前や、部下がへまをした場合を除けば早々忙しくはない安定事業を築きあげたクロコダイルとしては、午前中に報告書を読み上げ少しばかり取引先と腹をさぐり合い、次の計画の準備ができればこれといって子供による害はなかった。

だが、何故自分はこんな子供の面倒を見ているのかは相変わらず分からぬままだ。

「クロコダイル!ワニ!」

「食われても知らねえぞ」

きゃー!と相変わらずの歓声をあげて水槽に突進していく子供を眺めながら鳴りだした携帯電伝虫の受話器をとる。

途端に静かにした子供を眺めながら、二、三気のない返事を返し通話を切った。

さて、と前を向き直ったクロコダイルに駆け寄る子供を受け止めてお気に入りらしい鉤爪のブランコをゆらしてやれば上がる歓声。

空いた右手で部下に船を出すように連絡を入れて、ああそれから子供の荷物もだといえばいつも通りの礼儀正しい返事が返ってきた。

「お出かけ、俺も行くの?」

「二週間留守番してぇなら置いていくが?」

「行くー!」

きゃー!とばたばたと鉤爪に掴まり暴れる姿に葉巻を吹かして、ひょいっと肩に乗せてやればたかーい!と歓声があがる。

この数日間分かったことと言えば、水族館に行きたいというわがままを聞いてやるほどにはこの子どもが嫌いではないということだ。

「動物園に連れて行ってやるよ」

「ライオンいるかなー!」

「ライオンはいねぇな」

それでも何が楽しいのか、頭の上できゃー!と歓声があがるのは、別段悪い気はしないとクロコダイルは再度葉巻をふかした。