「いい子じゃねぇか、いい所で育ったんだろうなァ」

「………」

この状況はなんなのか。

夜襲?そんなものあったか?とでも言い出しそうなほど呑気なモビーディックのただっ広い食堂で、クロコダイルは何故白ひげと膝を突き合わせているのかが理解出来なかった。

「なァ鰐小僧よ、これァ年寄りの戯言だがな、おめェあの子をどうするつもりだ?」

「……なに?」

そんなクロコダイルの気持ちを他所に確信的な話題を切り出すのだからこの男は何なのか。確認しておくが馴れ合うつもりは毛頭ない。

「俺の家族は皆、道理が分かって俺の息子になったがあの子はそうじゃねぇんだろう」

このままじゃあ、あの小僧は海賊になるしか無くなるんじゃねぇのか。

その言葉に、聞く気のなかったクロコダイルの眉が思わずはねる。

「俺に口出されるのは気に食わねぇだろうがな、うるせェ口出しも年寄りの勤めだ。まァ昼から飲んでる酒の代金と思って聞くんだな」

「断る」

「グラララァ、相変わらずの跳ねっ返り具合だ」

言って聞くようなタマじゃねぇか、と豪快に酒を煽った白ひげに不満を隠さない視線を投げれば白ひげは再びグラグラと笑い声を上げた。六メートル超えの体格から響く声はいつ聞いてもよく響く。ありたいに言えば耳障りである。

「あの小僧を大事にするなら、先のことまで見通してやんな。ガキの未来ってのは老兵の比じゃねぇんだ。兵にならねぇ道もある」

だろう、と知ったようなことをいう年寄りは、言いたいことを言いきるとさっさと話を打ち切った。

ああでもないこうでもないと年寄臭い議論を交わす気がないのはお互い様だが、一方的に話を通したがるのは海賊と年寄りの性なのだろうか。

でもまあ、一理ある。

クロコダイルは無言のままグラスに口付けた。

ちらほらと思い思いの時間を過ごしている白ひげの息子達も、クロコダイル自身も白ひげすらも、あの子供の未来の姿に重ねたいとは思えなかった。