「い゛…っ!!」

一号にがじりといかれた不死鳥が悲鳴を上げて、横でうたた寝をしていたソルが飛び起きた。ワニ太!続いて響くソルの悲鳴。叫ばなくてもお前不死鳥だろうが。

以前、気分的にイテェと宣言した通り青い炎がともる腕を抱え身悶えた不死鳥にソルがあわあわと右往左往し、その様に思わず放っておけと声を掛けた。心配しなくてもそいつ不死鳥だぞ。

「グラララァ、随分と仲が良いいじゃねぇか」

「………行け、二号」

「おっと、俺を噛ませるんじゃねぇよアホンダラァ」

グラグラと上がる笑い声に、心の底から辟易としクロコダイルはため息を吐き捨てた。で、なんで俺はここにいるんだ?

バカ正直に顔を合わせるつもりは毛頭無かったはずなのだが、クロコダイルはこうして白ひげと膝を突き合わせてグラスを傾けていた。

グラスを傾けるその仕草にすらお上品な野朗だと揶揄されグラスで頭をかち割ってやりたくなるが、二号をけしかけるに留めておく。何が面白いのか豪快に笑う白ひげは、不死鳥同様ソルを気に入ったらしい。

「でっけー!強そー!!」

そりゃあ強いだろうよと内心思いながらも特にツッコむことはしなかった出会い頭に上がった歓声。クロコダイルにしたように白ひげをアトラクションにしたソルがきゃっきゃとはしゃぎ、はしゃいでいるうちに白ひげの息子たちすら巻き込んだむさ苦しい戯れと成り果てた。

クロコダイルは決して混じりたくない、追いかけっこともかくれんぼとも付かない戯れの中心でグラグラ笑う白ひげに呆れながら葉巻をふかし、酒を勝手に拝借したがソルに夢中な白ひげ海賊団は気づく気配も無かった。

この船大丈夫か。

腹いせも兼とびきり上等なスコッチを瓶ごと煽り、そんなことを思いながら眺めていれば上がる盛大な歓声にあくびを噛み殺し、まるで、と呆れ混じりで眉を上げる。孫の顔を見せに帰省した息子か俺は。

クロコダイルが吐き出した数度目の盛大なため息に誰が気づくこともなく、甲高い歓声と野太い笑い声がモビーディックに響いた。

「ね、エースは?」

「エース?誰だよい」

こてん、と傾げられた首に知らぬ名。んなやついたか、と口々に疑問符を浮かべるクルーに心当たりは無いらしい。

「いないの?」

しゅんとあからさまに落ち込んだ子供にあわあわと慌てる海賊。なんとも妙な光景である。何か勘違いしているのかは分からないが、そのエースとやらに会いたかったらしい。

「グラララ…エースって名前の息子はいねぇな、ソルの知り合いか?」

「違うよ!知ってるだけ!」

「そうか、見つけたら教えてやるよ」

「ソル!おやつ食べるか!」

「サッチ!食べる!」

落ち込んだ顔からころりと笑顔に変わったソルにまた野太い笑い声が上がる。可愛いなァ。そう口を揃えた、泣く子も黙る白ひげ海賊団がすっかり形無しだった。人懐っこさもここまで来ると武器だな、とクロコダイルは紫煙を漂わせる。

「グラララ…俺の孫にするかァ?」

「断る」

クロコダイルも食べよ!お菓子を両手いっぱいに抱え込んだソルに誘われ、渋々それに付き合う後ろ背に上った笑い声は聞かぬふりをした。