どうしてこうなったのか、考えることすら馬鹿馬鹿しくなりクロコダイルは部下に酒を言いつけた。

きゃっきゃとはしゃぐ子供は、事の重大さというか、クロコダイルの面倒臭さを分かっているのだろうかと考え、分かっているはずもないと紫煙を吐く。結局の所、聞き分けのいい子供ならば聞き分けるはずの拒絶をしていないのはクロコダイル自身だ。子供への甘さを自覚した途端、我ながら辟易としたクロコダイルは深々と紫煙交じりのため息を吐いた。

「白ひげ!楽しみ!!」

「アトラクションか何かみてェに言いやがる…」

そんな良いモンじゃねェぞとクロコダイルは渋い顔を隠すことなく言うが、それでもクロコダイルの船は白ひげが滞在しているという島へ向かうことをやめない。そのやり取りに笑いを必死に堪えながら肩を震わすマルコに向かうはずの殺意すら萎え萎む程、子供のはしゃぎ様にクロコダイルは気勢を削がれていた。

「白ひげ、大きいんだよ!でね、強くて、オヤジで!」

「ああ、ああ、そうだな」

脱力するに任せソファーに身を沈め、その膝の上でキラキラと目を輝かせる子供に、知ってるさとクロコダイルは葉巻に歯を立てた。いよいよ笑い転げた不死鳥様を枯らしても、クロコダイルに非はないはずだと思考が八つ当たりの対象を求め始めた頃、子供がその大きな目でまじまじとクロコダイルを見上げた。きらきらきらきら、無言で頬に突き刺さる純真な視線にクロコダイルは紫煙を吐き出す。

「俺もがんばったらクロコダイルみたいに強くなれるかな!」

「…そこは白ひげみたいに、じゃねェのか?」

「だって、クロコダイルかっけーもん!俺クロコダイルがいい!」

にんまりと、子供らしい満面の笑みで高らかに言ってのけたソルに、八つ当たりの対象を探していた思考がぴたりと止まった。笑い転げていた不死鳥も、おーおーと茶化すような、呆れたような声を上げ転がったままクロコダイルへ視線を寄越し、クロコダイルは二人分の視線を頬で感じながらもう一度、深く紫煙を吐き出した。

「……………そうか」

「…ぶ…っ!!」

思いっきり吹き出した不死鳥に砂の刃を見舞ってやれば、食らったくせに腹立たしい程華麗に空中へと非難した青い鳥が鳥らしさの欠片もなく宙で腹を抱えて笑い転げた。照れるなよい!!とげらげら笑う声に紛れて響いた野次にもう一発砂嵐をくれてやれば不意をつかれた不死鳥の悲鳴が響く。どうも鳥は好きになれない。このまま仕留めておくかと右手を振りかざそうとした時、膝元から甲高い歓声が上がり動きを止めた。

「すげー!砂!!」

もっとやって!と上がった幼気なお願いをしばし租借するように意味を思案した後、ふむとクロコダイルの口角が徐に上がる。

「聞いたか、不死鳥野郎」

「げっ」

上がる悲鳴と歓声をBGMに、結局のところクロコダイルの船は航路を変えない。