マルコは別段、自身がイイ人だという自負もなければ、正義のヒーローになりたいという願望もない。ただ海賊としては、まだ良心的な方だという自覚はある。

「ねえ、空飛んで!」

きらきらきらきら、純真無垢な目をした子供のおねだりをひとつ返事で聞いてやるほどには、まだ人間らしい海賊である。

きゃー!と歓声を上げるソルを背に、マルコは大空を滑空した。落ちるなよと声をかけても、当の子供は風と空を堪能することに忙しいらしい。小さなシルエットとなった船に置いて来たこの子の保護者の視線をなんとなく感じながら、さてどうしたものかといらぬ世話の続きを思案した。

「ソル」

「なあに、マルコ!」

「クロコダイルは好きか?」

「好きー!かっけーもん!」

きらきらきらきら、歓声混じりに即答され、そうかよいとマルコも釣られて笑った。

こんないたいけな子供が海賊と、危険と隣り合わせで生きていいものか。

関係ないことだと言うのにそんなことを考えてしまう自身は、自身が思っている以上にイイ人なのかもしれないとマルコは少し唸った。

「でも俺のほうがカッコイイだろ?」

「えー!クロコダイルのほうがかっけーよ!」

「おー!そいつは聞き捨てならねぇよい!」

「きゃー!」

ジェットコースターの様に空を滑空すればはしゃぎ倒すソルに釣られるように笑い、クロコダイルが可愛がるのも分かると妙な納得がいく。保護者へぶんぶんと手を振り回す子供を背で感じながら、緩く船の上空を旋回すれば葉巻を銜えた男の視線がソルを捕らえる。平和に生きられるなら、平和の方が良いとは思うが、親を恋しがる素振りも無い子供に親元に帰れと言うのも要らぬ世話なのかもしれない。だが、妙な話ではないかとマルコは金平糖売りの店主を思い出す。

「この子は行方知らずなんだ、親はショックで寝込んじまってね。海軍も相手にしてくれやしない」

クロコダイルにそういう頭がないのは何となく察しが付くが、荒んだ環境で育ったわけでもないらしいただの子供が親を恋しがらぬなど、本来ならば妙な話なのだ。

マルコは小さく唸り、どうせならと家族の滞在する島を思い返した。どうせなら、この子の親の顔まで拝んでくるんだったか。

俺が心配することでも無いんだがなぁと一人ごちて、これも長男坊の性だろうかと自身の苦労性に少しげんなりとした。いいや違う、自身が苦労性なのではなく、この子供がどことなく放っておけないのだ。たぶん。

「クロコダイルー!」

「落ちるなよ、ソル」

思考に気を取られたマルコをよそに、クロコダイルにそう言われた端から身を乗り出したソルが海に落ちて一騒ぎ合ったのはまた別の話だ。