「クロコダイル!飴もらった!」

そう言って見せられた棒付きの飴に、誰からだと首を傾げれば指差す一人の男。おもちゃもくれるって、行っていい?きらきらきらきら、期待に満ちた瞳に頬を刺されクロコダイルがおもむろに紫煙を吐き出した。ぱちりと目の合った男が逃げる体制を取るのが見え、ふむ、とクロコダイルは葉巻きを噛む。

「ここから動くなよ、ソル」

「はーい?」

相変わらず聞き分けだけは頗るいい子供は首を傾げながらも返事をし、大きな瞳をぱちりと瞬かせた。ぱちぱち、ぱちぱち。

「クロコダイルー!目になんか入った!」

「擦るなよ、ちょっと瞑っとけ」

「いたい〜…」

さらりと風に舞った砂。

その砂がはっきりとした手応えを伝え、きつく目を瞑った子供にもう一度動くなよと釘を指してクロコダイルの全身が砂となる。先に砂となった腕に胸ぐらを掴み上げられ宙吊りとなった男の前に現れれば、男が乾いた笑みを浮かべていた。

「飴の礼も言わせねぇまま逃げることないだろう」

「オ、オレイダナンテトンデモナイ」

「俺はこう見えて律儀でな」

「デキタオトウサンデスネ」

口を塞ぐことも忘れずに、きっちりお礼だけはしてクロコダイルはソルの元へと再び砂となって戻る。

目に入った何かは涙とともに出たのか、瞳を潤ませながらも言いつけを守ったソルを抱き上げようとして、汚れた右手に止めた。

「ソル、どこかに行く時は声をかけろよ」

「はーい!」

「あとその飴捨てろ」

「はーい…」

人を疑うことを教えるべきか否か。経由した島の立ち寄った商店で代わりの飴を買い与えながら、クロコダイルはしつけについて大いに悩んだ。

もはや父親と変わらないではないかと、ツッコむ勇気のある者は残念ながらいない。