元ロジャー海賊団の戦闘員。女。白ひげサイズのいい女。
若かった当時は世界一の美女と言わしめたが、中身はとんだ暴れ馬。若かりし頃に白ひげと互いに一目惚れ。
だけれど敵同士、互いに船を降りるつもりもなければ恋人になろうというつもりもなく月日ばかりが過ぎた。
しかし
女の断末魔が鼓膜を揺すぶりロジャーの血の気が引いた。ナマエ、と青ざめた唇がかすれた声を吐き出し、燃え盛る炎を視界に入れたときその声は悲鳴じみた物へと変わる。ナマエ!!その声すら、断末魔にかき消されたけれど。
火達磨となった仲間がもがき苦しむなか、その身に炎の悪魔を宿した男が嗤う。漂う肉の焼ける匂いと、油の燃える臭い。炎に揉まれた人影に駆け寄ろうにも背後に迫る敵がそれを許さない。レイリーも、ほかのクルーも、怒声ばかりが虚しく響く。
次第に呼吸すらままならぬのか、途切れ始める悲鳴。歯がゆさばかりが先急ぎ、手元の剣が敵を掠めた。
尋常ではない勢いで燃え盛る炎から、黒が伸びる。
「ナマエ!!」
「せん、ちょ」
ごきり。
武装色を纏った腕が、男が悲鳴を上げることすら許さずその首を掴み男の体から力を奪った。元より十分な体格差とそれに似合うだけの腕力の差はあった。炎に揉まれながら、まるで赤子の首をへし折るように男の首をあらぬ方向に曲げてみせたナマエの顔は、炎に遮られ捉えることができない。
「ナマエさん!!」
どぼんと、炎を男へ燃え移らせながら共に海へ落ちる様がまるでコマ送りの様に見え声にならない悲鳴が上がる。
「レイリー!!」
仕留め損なった敵はそのままに、後を追いレイリーと共に海へ飛び込む。炎は消えたが、六メートル近くある巨体は力尽きた様に波に飲まれていた。
気を失った自身の三倍近い巨体を二人がかりで海から引きずり上げる。
「クロッカス!!クロッカスはどこだ!!」
「ナマエ、しっかりしろ!! 」
ぴくりとも動かないナマエに、血の気が引いていくことが実感できた。焼け爛れた頬が無残で、その爛れは全身に及ぶ。
「…せん、ちょー…」
「ナマエ!!」
「あは、は」
やな夢
その後全身に重度の火傷跡が残り、明るかった性格が塞ぎがちに。人前に出ることを嫌がるようになるが、航海は続ける。仲間も気を使いぎみ。男だったら無理やり笑い飛ばせても、女だもんな。刀傷なら見慣れていても、火傷だもんな。体だけなら隠せても、顔や髪までは。
その後無事ロジャーは海賊王になるも、迫る死期に海賊団の解散、気がかりは残す事になる嫁と息子と、ナマエの行く末。
火傷を負ってから白ひげとナマエは顔を合わせていない。長年募らせていたナマエの恋心に気づいてはいたが、横槍を入れるつもりもなかった。だがしかし。
「ラフテルの場所教えてやろうか」
「グララララ…要らねぇよ」
「なら、ナマエの居場所は?」
「……なに?」
その後白ひげに攫われていきました。
お袋を拒否したため息子からは姐さん呼び、相変わらず引きこもりがちで、ロジャーから最後にプレゼントされた仮面をいつもつけている。飯は一人。
白ひげから大切にされていることは実感できたが、だがしかし醜く爛れた顔は見られたくないし堂々と横に立ちたくない。
白ひげは薬や医者を探すが、それでも傷跡を消すのは難しい。しかし甲斐甲斐しさのおかげか晩年(エース加入頃)には傷跡もコンプレックスも幾らか薄らいだ。
もうアタシはいいからさ、自分の身体労りなよ。苦笑混じりの言葉に白ひげはただ笑うだけ。
火傷を負わせたのはエースの前のメラメラの実の能力者。不意をつき油をかけられたのでここまで酷いやけどになった。
その事を知ったエースがロジャーの事も含め一方的にギクシャクしたり夜な夜な白ひげに薬を塗られたり部屋で二人きりで晩酌したり夜中の甲板でマルコあたりと談笑してみたりナースのお洒落につきあってみたり昔の事を聞かれた白ひげが息子の前で聞いてるこっちが恥ずかしくなるほど平然と惚気けてみたりすればいい。