夢を見る。

かあさん、かあさんと女へ手を伸ばす子供。女の顔は朧げだが、それでも女は子供を見定めると、その手を取るように指先を伸ばす。子供は嬉しそうに、かあさん、と声をあげた。かあさん、かあさん。その手と指先が触れようとした瞬間、赤が弾けた。女の胸を貫く刃が、女越しに子供の眼下でぴたりと刃先を止める。子供は状況を飲み込むことすらできずに、もう一度、かあさん、と呼んだ。

かあさん、かあさん、かあ、さ

「悪は、根絶やしにせぇ」





子供の頃、母親に虐待されていたサカズキ。だが幼かった故にあまり覚えてはいない。覚えているのは、ただひたすら抱きしめて欲しかった感情。

殴られ苛まれどれだけぞんざいに扱われようともかあさん、かあさんと呼び続けた子供は、最後までその思いを遂げることが出来なかった。

サカズキの目の前で殺された母。海賊に殺された。悪に、殺された。幼い心に鮮明に焼き付いた光景は、今なおサカズキを蝕む。




虐待を見兼ねた海賊が、いよいよ包丁に手を掛けた母を切ってしまった。海賊船に子供を乗せるわけにいかない。追われているうちに馴染みとなった海兵に預けるが、塗り替えられてしまった記憶により主を恨むサカズキ。

だが主はそれを知ってもそれでいいと思っていた。母親を殺したのは自身だ。虐待を忘れているならそれでいい。苛烈を極めていくサカズキの恨みを背に、男は今日も海を渡る。

報われないサカズキさん大好きです。