▼ 寄り添えない
体が、動かない。
神経性の毒か。どろりと視界に入った紫に、殺意の有無を探ろうとするが背後から身体を掻き抱くココの顔は見えなかった。
口も痺れ、喋る事は難しそうだ。今回も中々強い毒を盛ってくれたらしい。
犯人に預ける以外の選択肢をなくした身体に早々に見切りをつけ、まぁいいかと目を閉じる。首と腹に回った腕は、鈍った神経ではどれほどの力が込められているのか分からなかった。どうせ背後で死にそうなツラをしている犯人の、辛気臭いツラを拝まずに済だけマシだ。
どこにも行かねーよ。なんでテメェの方が辛そうな雰囲気醸し出してんだよ。
後で謝るぐらいなら、後悔するぐらいなら正面切って縋ってくりゃいいのに。傷つけて弱らせて手元に置いておくしか繋ぎ止めておく術を知らないこいつは、今日もてめぇ勝手に人を弱らせ人を傷付けた自分へ自己嫌悪のループに落ち込む。
それでも拒まれるよりはいいんだそうだ。好かれるはずのない自身の傍に、何でもいいからいて欲しいんだそうだ。
「だって、人は恐怖で逃げる事を諦めるから」
心理学で実証がどうこう言っていたが、それだけは俺も怒っていいんじゃないかと思う。それじゃあ俺がお前にビビってるみたいだ。酷い言い草ではないか。
相変わらず後ろから抱き縋る犯人に告げたい。
俺がいつまでもお前の毒が届く範囲に居るという事は、どういう事か是非とも考えてみてくれ。
ネガティブなこいつはどうせ、俺に高尚な自己犠牲の精神でもあるのだと抜かしそうだがそんなもんは母親の腹に忘れて来た。
そうだな、言っておいてなんだがもう面倒だから考えなくてもいい。
どうせこいつは毒が怖くて俺が大人しくしてると思ってんだ。一生そう思ってろ。
人よりは頑丈なこの体がてめぇの稚拙な縋り方に耐えれる間は、せいぜい付き合ってやろうじゃないか。
俺もお前も、大概不器用でなんだか笑える。
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