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▼ お決まりの展開なんかいらねぇんだよバカヤロウ

甘ったるい空気を纏った、独特の女だった。

烏の濡れ羽色の長い髪と、椿のような唇がひどく蠱惑的な女で、たっぷりとしたまつ毛の奥にある目は黒い真珠の様だと思った。

「まぁ、そう固くならずに、お力を抜いてくださいませ」

鈴を転がしたような声がころころと控えめに笑い、柔い手が俺の肩をとんと押して床へと倒した。指先で花をつついて揺らすような力だったというのに俺の体は容易く床の上へと転がり、覆いかぶさる女をただ目で追う事しか出来ずに生唾を飲み込む。

胸元に置かれた白い指先がゆっくりと這うように上り、胸元から鎖骨、鎖骨から首筋へと輪郭をなぞり爪先が擽っていく。ぞくぞくと肌が粟立ち、意図せず引き攣るような息を詰めた。それにまるで微笑むように目を細めた女が、耳元まで身を乗り出し唇を寄せ掠れるような吐息を吹き込んだ。

「お慕い致しておりますわ、菅野さま」

ぞくりと、背が震えた。

くちゅりと粘着質な音を立て耳に差し込まれた熱い舌に、胸元に差し込まれたその手に、かっと体が熱を持つ。まるで突然血液が沸騰したように熱かった。

ただただ戸惑いされるがままの男を笑うかのように、女の指は熱を煽るかのように胸元をまさぐる。

「菅野さまはこんなふしだらな女、お嫌いかしら」

燃えるように熱く痛いぐらいに張り詰めた肉欲に早く触れて欲しくて見上げた女の目の中には、懇願するかのような情けない顔をした男がいた。

子兎のように震えるばかりだった腕を恐る恐る伸ばししっとりとした黒髪の毛先を梳くと、名前も知らない女の唇が嬉しそうに微笑み、衝動に任せその唇に食らいつく。









がばりと起き上がった視界には、薄暗いいつもの寝床だった。ばくばくと心臓がうるさい。

それもそうだ。あんな女知らない。

冷や汗とは違う、火照りを冷ますような汗が体を湿らせるが帯びた熱はそれ以上に昂っているのが分かる。

夢だと理解しているはずなのに、理解してなお、目覚めてなお女の弧を描く唇が脳裏にこびりついて離れなかった。

「なんだってんだ…チクショウ」

一度、ちらりと毛布を捲り中を覗き込んだが一応は未遂で終わったらしい。むっつりと唇を引き結び、元気に脈打つ若さ人事のように罵ったが、その程度で萎れる若さであるはずもなく。

最近は色事どころでなかったからだと、誰にするわけでもない言い訳を脳内でこぼし菅野はふて寝でもするかのように荒々しく寝床へと潜り直した。


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