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▼ 理想違い

男のくせに、が口癖だった。

メイは人一倍、こうであれ、という意識が強い。男のくせに女々しい。男のくせに弱音を吐くな。男のくせに甘えるんじゃない。男のくせに、男のくせに、男のくせに。そのくせ女のくせにとは言わないあたり、元から女には弱かったのだと最近になって気がついた。

「メイ」

「おう」

与えられた個室で自家栽培しているのだという煙草は妙に甘ったるい匂いを放つ。一度部屋を覗いたことがあるが、壁沿い一面プランターに植えられた葉はいっそ尊敬すら覚えた。

「一本いるか」

「いらねぇよ、くせぇ」

がちゃりがちゃりと機材が物々しい音を立てることを気にもとめず、紙を噛むメイがくしゃりと笑った。その顔に思わず眉がよる。

「ベルトが調子悪いなァ」

「しっかりしてくれ」

「はいはい、リヴァイ兵長」

メイに兵長と呼ばれることは未だになれない。メイをメイと呼ぶことにも未だになれない。兵長、喉まで競り上がった音を無理矢理飲み下す。

動きに合わせ揺れる袖。

「メイ」

「おう」

本当は、本来ならば、兵長の座にはまだメイがいたのかもしれない。たらればは好きではないが、揺れる裾をはためかせながら笑うメイを見ているとそう思う時がある。

利き腕と共に兵長の座も指揮への口出しも一切を失ったメイ。しかしそれでも退団とならなかったのは、メイ意志と実力だ。

元人類最強。元兵長。元、元。メイの肩書きには全て元がつく。

その地位から引きずり下ろしたのが自身。救われた命の代償。

「なんだ…ぶっさいくな面してんなァ」

「メイほどじゃねぇよ」

「可愛くね」

知っていると、自身の最終チェックに入る。

仲間の死など、どれほど体験したところで慣れるはずもないがそれでもハジメテと言うのは何事においても強烈で。

「死ぬなよ、メイ」

「おう」

お前もな、と笑うメイは男らしく気にも留めていない古傷であっても、メイのいう男らしさの足りない自身は分かっているのにいつまでもその揺れる裾から逃れられ無い。

「んで、さっさと引退しちまえ」

こうであれという理想通りばかり、いかない現実。



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