「おいそこの生臭坊主」
「それは私のことですかな」
「てめぇ以外にいるのか。てめぇなりは腐ってるが坊主だろ、ちょっと経の一つでも読めや」
「いやはや、通りすがりに横暴な頼み方もあったものだ」
立ち寄った島の小高い丘。簡素な墓石に向かい座り込んだ男は、ウルージを横目でちらりと見やってそういった。
真新しい墓石の前には野草を摘んできたのか、無造作に置かれた数輪の花と酒の瓶。
「生憎、経など久しく読んでいないものでしてな」
「経を読まねぇ坊主なんざ坊主辞めちまえ」
「ふふ...、全くもって仰る通り」
そう言ったウルージに最早興味は失せたのか、男は少しばかり目を伏せ墓石と向かい合う。その背が酷く寂しく小さなものに見えたが、ウルージはそのままその場を後にした。
したのだが。
「風邪を召しますぞ、もう日も暮れてしまう」
帰船しようとしていたはずの足はふと気になりあの丘へと向かい、夕焼けに赤く染まったその背を見つけ、ウルージは思わず声をかけてしまったのだ。
ちらりと振り返った男はただ無言で、どこか虚ろげな視線にウルージはゆっくりと歩み寄る。
「どれ、経は読めませんが話でもしてみなさんな」
「いらん世話だ」
「そう突っぱねるものではない。旅の恥はかき捨てと言ったもんだ」