傷だらけで無骨なシルバーリングはそれでもきらりと輝いて見えた。

「なに、これ欲しいの?」

いいよ、なんてずいぶん気楽に寄越されたそれは、入隊した当初から奴の薬指に輝いていたことを知っていたから首をかしげていると、薬指しかサイズが合わなかったのだと奴は苦笑して見せた。

親の友人の婚約者の幼馴染みのそのまた、なんて随分と人伝に流れてやってきたそれは幸運のお守りだとか誰かの形見だとかそういった大層なものではなくて、毎回このような形で欲しいの?いいよ、なんて気楽に流れてきたものだという。

正直、その話を聞いてちょっと躊躇した自分がいた。

そこまで高価な品には見えないが、まるで人伝に渡っていくことが使命だと言うように傷一つまでやたらと輝いてみせるそれが自身の手に渡ってしまったら、次にこのリングが行く先が無くなってしまう、と柄にもない迷信じみた事を考えてしまったのだ。

「…いいのか?」

だが、なぜだか無性にそれが欲しくてたまらなかった。

「いいよ」

そういって笑って見せたグレイから指輪を貰うなんて、この機会を逃せば、この先一生訪れやしないのは分かっているものだから強欲な俺はついその指輪に手を伸ばしてしまったのだ。