あいつは、いい奴なんだと思う。
ゴロツキで目つきが悪くて愛想も無いが、いい奴なのだ。多分生まれた場所を間違えてこうなっただけで、俺達みたいなクズとは違う。
「海賊ぅ?」
「ああ、お前も海に出たいって言ってたろ、だから」
一緒にどうだ、と夜遊びにでも誘う気安さでマルコが言う。海賊ったって、お前。そう渋ろうとしたが思わず押し黙る。
俺は何処で生きてもクズだが、こいつは違う。クズの中で同等のクズとしてしか生きられない事に息苦しさを感じていたことも知っていた。だから、まぁ、いいんじゃないかと出来の悪い頭で思ったのだ。
こいつらしく生きる場所が出来るなら、それはそれで。
なぁんて気楽に海に出た過去の俺は、馬鹿なりによくやったと思う。あれから随分と時間が立ち、紆余曲折あり、マルコはマルコで居られる場所を見つけた。オヤジと慕う存在も、家族と呼び合い笑いあえる仲間も出来きた。腰巾着のようにその後を付いてきた俺だったが、クズにしてはいいアシストが出来たと思うし、こいつがいたおかげで俺も最低のクズまでランクアップせずに済んだ。
「だからなぁ、まぁ、おじさんは感慨深かったわけよ」
「ほぉ」
この船に乗り込んでもう随分と年月がたった。オヤジが俺達を息子だと受け入れてくれて、俺だって嬉しかったしこの船の生活は楽しかった。だけれどずっと生きる事が息苦しかったマルコはそれの非じゃなかったらしい。
嬉しいんだなァ、息子と呼んでくれることが。偶然新入りにかけていた言葉を聞いて、俺の足は思わず止まった。俺達は悪友で腐れ縁で誰よりも近しい自覚があったから、青臭い本音なんて照れくさくて何年も吐いていない。あんな笑顔、久々に見た。
「なんだろうなぁ、いつのまにか弟が巣立ちしてたみたいな、妙な感慨深かさでなぁ、分かるか、分かるだろ」
「そうだなぁ」
「分かってねぇことは分かった。それでなぁ」
つまり、嬉しかったのだ。
別に俺が手を引っ張って生きてきたわけではないはないが、ガキの頃から連れ立って生きてきたツレが満足して生きてるなら俺だって嬉しい。誰かこのクズの功績を褒めてくれ。俺はあいつがいい奴だということを知っているから、あいつが受け入れられる事が何より嬉しい。
ぐだぐだとそんな事をくだ巻いていると、横にいたイゾウが呆れ返った顔をして俺を見た。
「で、誰も褒めてくれねぇから俺の金持って賭場に干されたのかよい」
「…えへっ」
「屠るぞてめぇ」
マルコのつるりとした額に青筋が浮かんだ。
「いやな、ちょっと借りるだけのつもりだったんだ。勝ったら倍にして返せばいいかなーっていうか」
「てめぇはそれで返したことかったかよい?」
「失礼だな!あるぞ!…あるよな?いやある多分!」
「ねぇよ!!」
「お前がいて良かったよい」
「……よせよ、酒が不味くなる」