グレイとコラソンは仲が良かった。

グレイという男はガキ大将がそのまま大きくなった様な男で、子供の様な横暴さがあるものの同時に兄貴肌の面倒見の良さも持ち合わせドジをするコラソンの面倒をよく見ていた。

「ようコラソン、まだ死んでねぇか?」

ローと共に海を渡っていた時も、思い出した様に連絡を寄越し一方的に生存確認をするとまたぷつりと連絡が途切れるのだ。

だがグレイから連絡が来た日はどことなく複雑な顔をするコラソンは、どこか騙していたことが心苦しかったのだろう。仲間と思ったことはないと虚勢を張っても、やはりそこまで冷酷になりきれない男だったのだ。

だから、ここに隠れていろと押し込まれた宝箱を開けたグレイがぎょっと目を見開いた時、ローはどう反応していいのか分からなかった。まだ音は戻っていないのか、開いた口からの嗚咽は聞こえていない様だった。

ちらりと、見開いた目で足元を確認したグレイが一度目を伏せ、盛大に溜息を吐いたあとそのまま宝箱の蓋を占めた。

がこりと乱雑に揺られた箱。

殺されるにしては妙だと、思う余裕もなくローはただ泣きじゃくる。泣きじゃくっていると、二回乱暴に宝箱が殴られた。びくりと震えたローが一度息を詰めると、ぼそりとグレイの声が聞こえ、嗚咽をこらえたローがゆっくりと唇を噛み締める。

「悪かったな」

何に対しての謝罪なのか、ローには分からない。

投げるように置かれた衝撃の痛みに唸るが、箱の隙間に差し込まれた白い紙に気が付き恐る恐ると指を伸ばすと、歪に割かれた白い紙に数字の羅列が連なっていた。

「さっさと逃げろ」

それきり、箱の周りで人の気配はしなかった。









あの時ローが逃げ仰せ、今この場にいるのはグレイの力添えがあったからだ。

電伝虫越しの男は、子供の入った宝箱を港の片隅、人目のつかない所に放り投げた。あの時あの宝箱が船の中や真ん前に運ばれていたとしたら、ただ泣きじゃくるしか出来なかった子供があそこまですんなりと逃げ遂せることが出来たのか、今となってはそうは思えない。

「何で、逃がしてくれたんだ」

ローが問う。あの後、行く宛も金もなくさ迷ったローが縋る様に渡された番号へ連絡を取ると、出たのはグレイだった。

コラソンの真似をして電伝虫を二回叩けば、ローは一言も話すこと無くドフラミンゴの動向と、グレイの隠し金の在り処を数箇所教えられた。ばらばらの島の女の家、修道院、海軍の駐在所、好きに使えとだけ言われ切られた通話は随分と一方的だったが、おかげで子供一人が放り出されたにしては、随分と苦労が少なかったように思う。それでも、毎日が死に物狂いだったのだけれど。

「ジョーカーを裏切る真似してまで、なんで」

電伝虫は、電伝虫越しの男の表情を真似してつり目勝ちの目を気だるげに細める。

「あのドジが、本当にボロを出さずに潜入できてたと思うか」

「………」

「知ってたんだよ、大体は。まぁそれでも、俺はコラソンが気に入ってたからな」

そいつが命張ったなら、手助けぐらいいいだろ。

何でもない事のようにさらりと言ってのけた男に、ローの言葉が詰まる。

「ガキ一人でどこまで生き延びるかは疑問だったが、まァ、良くやったんじゃねぇか」

用はそれだけかと、電伝虫が話を終わらせにかかり慌てて待ったをかければ面倒事かと電伝虫が笑う。

「違う。俺はもうすぐ旗揚げする」

「旗揚げ?」

「その前に一度、会えないか」

「…会う理由が分からねぇな」

「何でもいいだろう、そんなもん」