見てる方が痛いと、海賊のくせにグロテスクなモノが苦手な野郎。

トマトは嫌いだがトマト味は好き、みたいな妙な線引きで、吹き出る鮮血は平気なくせに抉れた肉をみるといつも情けない悲鳴を上げて逃げていた。たまに切り傷でも作って帰ると、それが治り切るまで腫れ物でも見るように遠巻きで様子を伺って来るような男だ。

だから、ああ、もうダメだろうなァなんて半分諦めていた。

切り取られた左腕に未練はないが、治りかけた傷口を鏡に映してため息を一つ。額から目元にかけて抉られた傷跡も、肩から胸元の切り傷も見事な程にくっきりと残っている。恐らく、消える事はないというのは容易に想像出来た。

あーあ。

そんな気持ちと共にキッドの頭の中に浮かんだ顔は、誘ったところであからさまに拒絶を浮かべる顔だ。それが嫌になるほど現実味を帯びていて、キッドの指先は僅かに盛り上がった傷をなぞった。

まぁそれ以前に、そもそもそんな関係ですらないのだ。スタート地点に立つ以前に負けた気分になり、少しばかりの虚しさすら覚えた。

こんこん、と占領していた洗面所にノックが響き鏡から視線を剥がした。返事も待たずに開かれた扉は、ノックされただけまだマシだ。

「あれ、キッド」

ひょっこりと顔を覗かせたのは思い描いていた人物だ。

「はよ、早いね」

「ああ」

「傷大丈夫?」

「ああ」

気遣う癖に苦手な傷口は見たくないのだろう。少しばかり反らされる視線に怒りよりも苦笑が零れ、脱ぎ捨てていたコートを肩にかけた。

「これぐらい慣れろよ」

「うー…わるい」