大抵のワガママは「しょーがねぇなァ」と笑って許してくれるから、そこが好きなのだと言えば最低だと言われるだろうか。

グレイが「しょーがねぇなァ」と笑うと、愛されているのだと実感できるのだ。あれがほしい、これがしたい、こっちいこう、あっちいくな。甘ったれたワガママだという自覚はある。ましてやエースは甘えベタで、詰めるようなねだり方しかできないから尚更、分かりにくくて面倒だ。

だけれどグレイはそんなエースの下手くそな自己主張の真意を器用に汲み取り「しょーがねぇなァ」と笑ってくれるものだから、そこが堪らなく好きなのだ。

今だってそうだ。

ぶすくれてじと目でグレイを見つめていれば、それに気付いたグレイが困った子供でも見るように笑う。

「暇なのか」

暇だと言われればそうだし、そうじゃないと言えばそうだ。釣りの擬似餌を作ろうとしていただけで他の用はない。そんなことは知るよしもないグレイは随分と親しげに話していたナースと二、三言葉を交わすとあっさりとエースに寄ってくる。

「えーす」

甘ったるい声でエースを呼んで、当たり前のように頬にキスをひとつ。素直に照れることもできずに毎度真っ赤になりながら慌てて突き放すエースをグレイはまた笑って、おいでと突き放した分エースを手繰り寄せた。

「照れるなよ」

「照れてない」

「うそつき」

「何してたんだ」

「マルコの使いの途中」

「ナースと話し込んでたくせに?」

「話し込んでたくせに」

ちょっとした嫌みの否定もせずにグレイは笑ってエースの腰に手を回して、再び頬に唇を寄せた。

ぶすくれて口をへの字に曲げた自分に可愛げなんてないことは分かってるのだけれど、グレイはエースがこうして可愛げのないすね方をして見せても嫌な顔をせずにあやしてくれる。これも甘ったれたワガママだと自覚はしていた。

「エースは?」

「擬似餌つくって、釣り」

「いいなァ」

「グレイはしねえの」

「そーだなァ、使いが終わんねぇとなァ」

しょうがないとは分かっているのだけれど、不満げに唇をつき出せばグレイは腰に回していた手でエースの癖毛を指で絡めるように撫でていつもと変わらず「しょーがねぇなァ」と言って笑った。

「夕飯までには終わるから、飯一緒に食って、酒でも飲むか」

「グレイの部屋で?」

「俺の部屋でも、お前の部屋でも」

「んじゃあ、待ってる」

早めに終わらせるよ、と言ったグレイが最後に額にキスを落として使いのために去っていく。その背を見送りながら、そんな使いよりエースを優先してほしいと言えば流石に嫌がるだろうかとまたグレイを試すような事を考える。これだけ甘やかされているのは分かっているのに、やはり最低だといわれても仕方がないかもしれない。

だけれど実際、エースはそのワガママが叶えられなくとも構わない。少しでも心砕いて、ダメだとしてもダメだという為に構って甘やかして欲しいだけで、言うだけ、言わせてほしい。

それがどんなワガママよりも甘ったれたワガママだと分かってはいるのだけれど、それはグレイが「しょーがねぇなァ」と毎度甘やかすから悪いのだ。

甘やかされることなどなかったエースが可愛げのない甘え方で甘やかされることを知ってしまったから、グレイは最後まで可愛いげのないエースを甘やかすべきだ。

そうは思っていても、現実はこんな可愛いげのない男がいつ愛想を尽かされるのか戦々恐々としてるのだけれど。