俺の死神は、きっとこいつだ。

腕に負った深手の傷を縫い合わせながら無感情に俺を見下ろすローの視線に視線を投げ返し、まるで玩具を取られたガキみたいだと内心少し笑った。

海賊が傷を負うのは珍しい事でもあるまいに、体中に散る古傷の一つ一つが憎いとでも言いたげにローの視線は俺の体を舐める。

「ロー」

呼べばついと持ち上げられる隈に縁どられた視線は、相変わらずどこか純粋でどこかやさぐれていて。

ロクでもない知識の大半は俺が教えてやったが、生きる上で必要なことは俺と知り合うよりも前に知っていた。

俺みたいなどうしようもないクズと違って、お綺麗に大事に育てられた事はきっと間違いない。そんな奴を薄汚れた世界に引きずり込んだ後悔はないが、いつかロクでもないしっぺ返しがあるだろうなとは思ってる。

歪に抉れた肉を繕い終え、指先でそこをなぞったローの視線が何か言いたげに俺を見下ろす。

絡めた視線そのままに動かない俺に焦れ、ソファーに腰掛ける俺に多い被さるように身を乗り出したローが腕の傷から滲んだ血を俺の剥き出しの胸元に擦り付けるように指先を這わした。

薄い唇が俺の唇を啄むように掠め、焦点すら定まらないような距離でローが俺を射竦める。爪が胸元、心臓を肉と皮の上から引っ掻き、次いで女が甘えるような仕草で掌を押し当てた。

「これ、くれよ」

言葉に合わせ吐き出された吐息が口元を掠め擽ったい。くつくつと腹を揺らし笑えば、咎めるように胸元を押さえる掌がじわりと力を増した。

「オネダリなんて、誰に教わったんだ?」

「あんただろ」

「俺?まさか」

繕われたばかりの腕でローの腰をゆっくりと撫でれば、ひくりとその腰が揺れる。反応を無視するように無遠慮に這いずり回る手は、腰から尻を伝い、太腿を抱え込むように内股を撫で上げた。

「俺はもっと下品で、馬鹿みたいなオネダリの方が好みなんだ」

知ってるだろ?そう唇同士が掠める距離で囁けばローの目が微かに揺らめく。あんたは。絞り出された声に合わせ、瞳が情けなく震えた。

「命をくれると言ったくせに、何一つ寄越さないな」

「一等上等なもんくれてやってんじゃねぇか」

「…足りないんだよ、全然」

足りない足りないとガキのように愚図り始めたローに再び腹が笑いに震える。ああ、このガキは出会った頃より随分と年を食ったと思っていたが、それでも面白いほどにガキのままだ。

俺は多分、要らないことばかりを教えて必要なことは何一つ教えていない。

時折思い出したように語られる昔話の、ジョーカーとやらにそのまま育てられていた方が余程健全に育ったろうにといっそ哀れみすら湧いてくる。ローの短い髪を掴む様に後ろ頭を固定しても、抵抗するそぶりすら見せない忠犬。

「ローはオリコウサンだなァ」