硬い蹄が相手の顎を打ち抜いた手応えににやりと口角を持ち上げた。よく草食動物は弱く大人しいというがそれはとんだ誤解だ。シマウマはウマだが手なずけられないほど凶暴なのだと、ウマウマの実モデルゼブラを食った俺はよくお似合いだと評された。

乱れた鬣を直すように首を振り、ぶるる、と唸るように息を吐けば地面に突っ伏したヒョウ柄の子猫が唸りながら俺を睨みあげた。おお怖い。

「避けられると思ったんだ」

人の姿に戻りながら、白々しくもにこりと笑えばヒョウ柄の子猫がぐるぐる唸る。最近というには少し前、異例の若さでCP9に入ったこの若者はどうも血の気が多いのか肉食系と草食系の相性の性なのか、よく俺に突っかかる。じゃれてんのか喧嘩売ってんのか分からない突っかかり方は、普通なら突っかかれた回数死んでいるが生憎俺もヤワじゃない。

最近じゃ周りも呆れてノータッチを決め込んでいるあたり、この組織は大概薄情である。

「おら、俺らで任務なんだと、さっさと行くぞ」

それどころか今じゃCP9切っての武闘派コンビとして任務に駆り出される始末なのだから、哀れな草食系諜報員が肉食系諜報員の餌食にされようともお構いなしなのだ。

懲りずに背を向けた俺に牙を向けた子猫を蹴り倒し、やれやれと蹄で床を叩く。

「いい加減子猫ちゃんはママに狩りを教えてもらった方がいいな」

最初は兎なんかがオススメだ、と親切な先輩がアドバイスしてやれば子猫は子猫らしからぬ唸りを上げ俺を睨み上げる。先輩のアドバイスをなんだと思っているのだろうか。

「俺は、子猫じゃない」

「子猫は皆そう言うんだ」

「子猫じゃない」

「ああ、そうだな子猫ちゃん」

今日も可愛いぜ、とウインクしてやれば鋭い爪が俺の頬を掠め空を切り裂いた。元気そうで何よりである。

当たらない攻撃に悔しそうに歯噛みした子猫ちゃんを尻目に任務へ向かおうとすれば、背後からこの上なく悔しそうな呻き声が聞こえこっそりと笑ってしまった。

「子猫じゃ、ない」

結局のところ俺に一人前だって認めて欲しいだけらしいけど、最近の子って口下手でやぁね。