「…っ…!」

「本当、声出さないよな」

逃げようとする腰を捕まえ引きずり戻し思い切り突き上げた。仰け反って露わになった首筋に食らいついて歯を立てれば震える体。それでも声を出さないクロコダイルの代わりに上等なベッドが悲鳴を上げた。

「なあ、声出してってば」

飛び切り強く腰を打ちつけてもクロコダイルは身を捩り荒い息を吐き出すばかりで声を出さない。はっはと犬のように吐き出される息はそれはそれで興奮するのだけれど、どうせなら声も聴きたいと思うのが男の性であろうか。

快感に濡れた瞳は今にもグレイに食らいつかんばかりに見上げていて、意識が飲まれることを恐れているかのように右手はシーツを握りしめる。グレイは割開いた膝の間でそんなクロコダイルをいかにして鳴かせるかということに意識を巡らせた。

何度目かの行為の中で見つけた弱いところを攻め立てても喰いしばるように声をこらえるその姿が酷く悩ましい。いつもいつも、その姿に煽られて気が付けば声を聴かぬまま行為は終わりを迎えるのだ。

本当に、人を引き付けることが上手い男だと思う。

胸の飾りを嬲れば小さく胸を反らせ後孔を締め付け、喘ぐよりも分かりやすく快感を訴えてくるというのにすべてはさらけ出さない。それが強く後を引いて、どっぷりと自身がのめり込んでいくのが分かる。回を重ねるごとに、もっともっとと欲しくなるのだ。

昔、接待で宛がわれた高級娼婦は、全てを晒さないことが客をつかむコツだと言っていたが、クロコダイルを抱いてみてなるほどと大いに納得した。

いいところをかすめた時に見せるとろけた顔だとか、整えている髪を振り乱しながら身を捩る様だとか、回数を重ねるごとに一つ一つ暴けた箇所は増えていったが、一度暴いたとしてもこの男は一回の行為で全てを見せてはくれない。

内腿をくすぐるように指を這わせばひくりと震えて、ああ限界が近いのかと先走りに濡れるペニスを握った。卑猥な音を立てて手荒に擦れば荒い息を詰めて大きく捩れる体。その姿がこれ以上ない程扇情的で打ち付ける腰もだんだん激しさを増していく。

「…っは、残念」

荒らい息を吐きながらベッドにぐたりと体を預けたクロコダイルを見下ろし笑う。

「今日こそクロコダイルの厭らしい声聞こうと思ってたのに」

「…クハハハ」

お互い汗ばむ肌も気にせず肌を摺り寄せ、まどろむように唇を合わせた。

「俺を鳴かせるにゃ、まだまだ経験値がたりねェよ」

「そんなに俺を夢中にさせてどうするつもりさ」

「さあ」

離れようとした頭を鉤爪て引き戻されて額を突き合わせた。鋭い眼光が、まるで本物の鰐のようにグレイを捕えて離さない。

「お前は大人しく夢中になってればいい」

「…可愛い事言ってくれちゃって」

本当に、後戻りできなくなる程夢中になってしまうのも時間の問題だとグレイは思い、それでもいいかと誘われるがままに再度唇を合わせた。