失敗も気にしないが苦労も気に止めない。懐が大きいのか辛辣なのかと聞かれたら俺は間違いなく後者だと答える。俺が並の人生三回分くらいの苦労して仕事を終わらせても、滅多にないけどしょっぼい失敗しても我らがボスは大抵の報告「そうか」で終りだ。労わってくれよ、雀の涙でも、砂漠の砂粒ほどでもいいから。

そんな金払いはいいが血も涙もない上司に付いてたら、やってらんねぇよな、なんてボヤきたくもなるだろ?俺は悪くない。

どっかのマダムが旦那の浮気現場を突き止めたみたいな金切り声をBGMに、行きつけの安居酒屋で俺はカウンターに突っ伏した。ああそうさ。今日もさんざん苦労して仕事したさ。だが労力に似合うだけの金をぽんと渡され、ちらりと向けられた視線とともに寄越された言葉は「ご苦労」。安定のドライさである。スナスナの実の能力者だけに。

無い物ねだり、上を見すぎ、金を貰えるだけ有難いと思え。間違いない。世の中仕事の報酬に人生を終わらせられる輩もいるんだ。うちのボスはまだ良心的だ。