陳腐で安い言葉になど、用はないのだ。

元より愛だとか恋だとかにうつつを抜かす性でもない。永遠の誓い?子宝?それとも互いを縛り付ける操立て?

そんな物に用はないのだ。

「…ん、っ…!!」

甘い嗜好にも興味はない。若さに任せた欲が渦巻くわけでもない。強い信頼だとか、絆だとか、思い描く幸せな未来だとか、クロコダイルにとっていつ失うとも知れぬそんなものは無価値だ。

首筋に這う舌がざらりと蠢き、伝う汗を舐める。割開かれた膝が男を抱え込み、ぐちゅりと結合部が粘着質な音を立て耳を犯す。

荒い息を吐き捨て、クロコダイルは嫌味な程甘いバニラのパルファンに吐き気を覚えながらその背に鉤爪を回した。途端に微か乱れた律動。その背に幾度目ともつかぬ爪痕が残ったのだろうと、自身の甘ったるい嬌声を聞きながらクロコダイルは口角を僅かに上げる。

「あ、は…ぁあっ!!」

それが気に食わなかったのか、不満げな視線がクロコダイルを胸元から見上げるように覗き込み、合わせる様に一際強く打ち付けられた腰。

「また跡が残る」

また、の言葉通りその背には無数の爪痕が引き攣るように残る。メロンみたいだと、鏡越しに顔を歪ませるほどに重ねた傷。

いいじゃねぇかと諸事の気だるさのまま雪崩込んだ風呂場でせせら笑ったのも記憶に新しい。

残しとけよ、過去は消えねぇから。

飲み込んだ言葉の真意を、この男が知る事は無いだろう。縛り付けるつもりもないクロコダイルのあずかり知らぬ何処か、何処ぞの女を抱いたところでその女はクロコダイルの残した爪痕を見らざるを得ない。不確かな未来に互いの姿が無かったところで、クロコダイルの残した痕跡は無くならない。

それでいい。それがいい。

「本当に、自己顕示欲の強い」

「ん…っ」

擽る様に体を這う指先。首筋を舐っていた舌が仕上がり、耳たぶへ軽く歯を立てる。耳の造形に合わせ、再び舌が艶かしく蠢く感覚に腰が揺れた。

「……っは、締まるな」

鉤爪に伝った赤が、重力に従いクロコダイルの脇を僅かに汚す。存外深く肉を抉ったらしいが、最近では多少の痛みは気にもとめなくなったグレイは気に止めた様子もない。

ぐずぐずと達するには僅かに届かない刺激が焦らすように与えたれ、耐えられずに身をよじれば眼前の顔がいやらしく笑みを浮かべる。食らい付くように唇を合わせ、絡めた舌先が唾液を滴らせた。