※072、薬物表記有り。薬、ダメ、絶対
ぐちゅりと、耳障りな音が鼓膜を撫でる。ぐちゅり、ぐちゅ。
「は…っ、くそ…」
手で覆う剥き出しのそれは熱くそそり立つというのに、その熱は一向に放出されようとしない。いくら刺激しようとも卑猥な水音と独特な匂いばかりが噎せ返り、ドフラミンゴは小さく背を震わせた。
イキたい、イケない。そればかりがぐるぐると頭を占める。上がる息が気持ち悪い。
「…ふっ」
焦れた本能に従い、恐る恐る這わせた指が未知であったはずのアナルを掠めると、まるで期待するかのようにペニスが震えドフラミンゴの眉が情けなく下がった。ああ、こんな。
あの男にされた事など忘れたいというのに、殺して無かった事にしてやりたいとすら思っている筈なのに。
ゆっくりと、指がそこへ飲み込まれて行く。
「あ…っ、はっ」
ぐちゅりと耳を犯す水音が増し、ドフラミンゴは現実から目をそむけるように目をきつく閉じる。だがまぶたの闇で浮かぶ姿に、知らず自身の手が激しさを増した。
「ふ、っ、あ…っ」
行為で、ましてや自慰で声を出したことなど無かったというのに、途切れ途切れに口を割って出る音は一体なんなのか。
べろりと、餌を喰らう猛獣のように舌なめずりする男の顔が脳裏を過る。
「たまんないでしょ、忘れらんなくなるかもね?」
イケない、イキたい。そればかりがぐるぐると頭を占めた。上がる息が気持ち悪い。
「…っ」
ぼろりと、もどかしさを孕んだ雫が溢れた。
力任せに、それこそ夢でまで魘された男を床に叩きつけのしかかれば男は痛みと驚きに顔を顰めてドフラミンゴを見上げ、次いで下卑た笑みを浮かべた。
その笑みに胸ぐらを掴みあげる腕の力が更に篭るが、男は至極愉快だと言わんばかりに腹を震わせドフラミンゴの神経を逆撫でする。
「他のじゃダメだったでしょ。一回味わっちゃうと、皆そう言うんだよね」
揶揄するような、茶化すような、兔にも角にも人を馬鹿にし切った声音だ。だと言うのに、歯の間から覗いた舌の上のピアスと、どろりと頭のネジを無くした人間特有の目に見据えられるだけでドフラミンゴの腹の奥は解せない熱にぐずぐずと疼いて見せた。
意図せず、熱を帯びた吐息に男が浮かべた軽薄な笑み。
「やーらしーい」
無造作にポケットから取り出された、シワにまみれた小さなパッケージ。それを飴でも寄越すように押し付けられ、ドフラミンゴは思わず生唾を飲み込んだ。
僅かに強ばる指先でつまみ、歯で噛み切るように裂いた薄いビニール。さらさらとした独特の白粉を僅かに舐め取るだけで、脳の奥が甘く痺れる様な気がした。しかしそんな錯覚も一瞬。まるで波が押し寄せるように、鼻の奥からぶわりと燃えるような高揚感が押し寄せドフラミンゴの背が震えた。
その隙に緩んだ手元からするりと抜け出したグレイは歯を見せ付けるように、悪人特有の、人をいたぶる様な目でドフラミンゴを見下し笑った。かちゃかちゃと勿体つけてベルトを緩め寛げると、そこから覗いたグロテスクなそれ。
それでも、浮かされた頭は前回味わった怖いほどの感覚を思い出し疼いて主張する腹。
開けたばかりのパッケージをドフラミンゴの手から奪い、唾液で湿らせた指でそれをペニスへと塗りつける様を目で追うと、まるで餌を待つ犬のようではないかとわずかに残る理性が喚く。
固くささくれた指が、荒々しくドフラミンゴの顎を掴み鼻先へペニスを押し付ける。噛みちぎってやりたいと思いながら同時に、息が熱く荒さを増していくのを自覚した。
「まだ、待て」
犬にするように、にやついた男が見下ろして言う。
「待て、まだだよ、まだ」
「は…っ、っ」
だらだらととめどなく溢れる唾液を飲み下し、頭上の顔を睨むように見上げればその顔は悪意の塊のような笑みを深めてみせる。
「よし」
噛み付くような勢いで、それを口に頬張った。
僅かに鼻に抜ける生臭さも、まだ幾分柔らかいそれの不快さも熱に浮かれた頭はすっかり忘れて、残るのは舌を撫でる皮膚の快感と喉を突かれてえずく苦しさ。
唾液に滴るそれを啜るようにねぶり取れば、燃えるようだと思った体がふわりと重力を忘れる。
僅かに残っていたはずの理性も、思考力も、溶けるように奪われていく。
じゅるりと、唾液と空気とが泡立つ音がいやに頭に響いた。
伸ばされた指先がサングラスのブリッジを掬うように攫っていき、サングラスを追うように視線を持ち上げればそれは呆気なく床に放り捨てられ軽い音を立て転がった。
大事に扱えと確かに思ったのだが、果たしてドフラミンゴはそれを口に出しただろうか。それすらもあやふやになり始めた思考に、口角が釣り上がった事だけは分かった。
後ろ手に、ぐちゅりと音を立てて疼くそこを慰めるドフラミンゴを嘲笑うかのようにグレイの足はドフラミンゴのそそり立つペニスを踏みつけていたずらに撫で、腰がはねる。くつくつと嘲笑の声にすら頭の芯で熱を煽る。
「満足させたげるから、もう俺の商売の邪魔しないでね?」
顎を掴んでいたグレイの親指が、強引に唇を押し上げ前歯をひと撫で。
なんでもいいと、ドフラミンゴはその親指に舌を這わせた。