空の上の××× | ナノ


▼ 不器用は承知

あれからナマエと関わることが無い。

狭い集落故に、姿を見かけないということはない。それでも視界の隅で見かけたナマエがワイパーにちょっかいを出すことも、話し掛けてくることも無かった。かと言ってあからさまに避けられているとか、そんなことも。

「ワイパー?」

狩りに行かないのかと、ブラハムの声がする。

「…今行く」

ナマエとは、もとより行動するグループが違う。そこまで凝り固まった集団意識はないが、年代が違えは共に行動することは多くない。

「おう、ナマエ」

「おう、漁でも行くか?」

大体にしてナマエの周囲は、我の強いワイパーを快く思っていない者が多い。それは以前からナマエにも言えていたことで、近寄ろうとは到底、思わなかった。








肉に魚に山菜に、今日の夕餉は大漁らしく豪華だった。

男衆が捕ってきた獲物を女衆が調理した頃には、辺りはすっかり茜色に染まっていたが随分と香ばしい匂いが集落を包む。舌鼓を打ちながら肉に食らいつくゲンボウから夕餉を守るカマキリを他所に、ワイパーは魚に食らいついた。

どこからか酒も振舞われ、しかし深酒する気分でもなく喉を潤す程度に留めたワイパーは腹を満たすと腰を上げる。さっさと幕屋に引っ込んで、寝てしまうつもりだった。

どこに行くんだと背にかかった声に手を振り森へ向かう道すがら、酒を片手に談笑するナマエを見つけた。気づいていない訳では無かろうに、一瞥すら寄越さないナマエにまだあの赤い実は成っているのだろうかと唐突に思い当たる。

風に乗り耳に届くナマエの笑い声。仲間の一人が無遠慮に肩を組み、ナマエもそれに応え腕を肩に回す。

「………」

それを見た途端、あの忌々しいほど甘ったるく赤い実が、どうしても食べたくなった。

茜には染まっているがまだ日は長い。今ならまだ、森に入っても特に問題はない。

ナマエから視線を引き剥がし、あの実のなる場所へと足を向ける。もう落ちてしまっているかもしれないが、もしかしたら。そんな気持ちで。

しかし足早に向かった先の木の上で、ああ、とワイパーは僅かに肩を落とした。

やはりと言うか案の定というか、そこには実を付け終え青々とした葉だけが茂る木々が風に吹かれ葉を擦れあわせている。風の音と葉が擦れる音とが、日が陰り始めた空の冷たさを際立たせているようだ。

無いものはどうしようもないと踵を返す。

背後でにたにたとナマエに笑われているような気がしてひどく不快だったが、それは所詮気のせいだともわかっていた。

甘いものが食べたい。ひどく、無性に。

しぶしぶと集落に戻り、とうに夕餉は平らげたろうに未だ談笑するナマエの背を見つけ、思わずぎろりと睨みつけた。人知れぬ敵意を向けられているとは露と知らぬまま、ナマエは酒に赤らんだだらしのない顔で笑っている。

「………」

そんな自分がなんとも馬鹿馬鹿しくて、言い知れぬ妙な虚しさに視線を引き剥がした。





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