空の上の××× | ナノ


▼ 基本的に押しに弱い

「なっまいき」

冷ややかな声が、耳元で聞こえた。なにを、と抵抗しようとした四肢は押さえつけられうまく動かず、痛みを伴い骨が軋んだ。

首筋に掛かる息がぞわぞわとした感覚を生み、小さく身を捩る。お前さあ、と聞きなれた声がした。

「粋がるのは勝手だけど、年上の敬い方ぐらい覚えたら?」

「はっ…、気にくわねぇとでも言いたげだな」

「言いたげ、じゃなくて言ってんの」

抑え込まれた腕に力を込められ小さく呻く。知るか、と言いかけたワイパーは耳元を襲った感覚に上ずった声を上げた。漏れてしまった声に慌てて歯を噛み締めるが、言い表せぬ衝撃にぞわぞわとした感覚が背筋を這いまわる。

それでも覆いかぶさりワイパーの自由を奪うナマエはわざとらしく音を立てて耳へ舌を這わす。ひ、と自分でも聞いたことのない声が噛み締めていたはずの口をついて出た。耳元や首筋に掛かる息と好き勝手に這いずり回る舌に途切れ途切れに堪えきれない声が漏れ、屈辱と羞恥と言い知れぬ感覚に全身が熱を持て余していく。

「も、…やめ…っぅ!」

押さえつけられたままの腕が抵抗を忘れ縋るものを探すように空を掻いた頃、ようやくその顔がワイパーの首筋から離れた。てろりと光る唾液が糸を引き、唇を濡らすそれをなめとる姿に上がってしまった息を飲んだ。

早鐘を打つ心臓が、誤魔化せぬほどに体を高ぶらせる。ありえない、と甘い痺れを伴い力の抜けていく体を叱咤したところで甘い痺れは確実に思考回路まで鈍らせていく。

挑戦的な色香をはらんだ瞳が、ワイパーを見据えた。

「意外と可愛い反応してくれるじゃん」

するりと離された腕が自由になっても、覆いかぶさる男の瞳に見据えられその体を払いのけることが出来ない。離れた腕が、首筋から肩を通り、胸元をなぞり、わき腹をくすぐるようにゆっくりと下肢へ伸びてい行く。抵抗しなければ。そればかりが頭をかけ廻るというのに一向に痺れた体は動こうとしない。それどころか与えられる感覚を甘受するように身を捩り、聞いたことのない甘い声が口をついて出る。

ぴたりと、その手が腰蓑を弄り足の付け根で動きを止めた。ふ、とまるで期待していたかのような息が上がる。

「…やめた」

その言葉と同時に引き抜かれた腕に、果たして自身はどんな顔をしているかなどワイパーは考えたくもなかった。体を押さえつけていた圧迫感はあっけなく退き、その指先がワイパーの唇をかすめるように触れた。

「脅かすだけのつもりだったのに、あんまり可愛い反応してくれるから歯止めが効かなくなっちまいそうだ」

じゃあな、と笑って去って行ったナマエを呆然と見送ったワイパーは、暫く間を置いて我に返ると同時に頭を抱えた。

耳元で脈打つ鼓動が煩い。色々な感情が一緒くたになってぐるぐると暴れまわり、どうにもならぬ羞恥心に身悶えた。殺意に近い感情が沸き上がっては羞恥に塗りつぶされるを繰り返し、衝動に任せ地面を殴りつけた。

じんじんとした痛みを伴う拳。それでも、込み上がる感情を殺すことはできずに喰いしばるように唸る。

あのやろう。

触れられた箇所だけが、異様に熱かった。






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